資金調達のハードルが上がり、VCからはイグジットを迫られ、IPOをしても株価が付きづらい──スタートアップの経営者にとっては厳しい状況が続いている。そんな背景から、当社に寄せられる売り手からの相談件数も増えている。特にミドル/レイターステージのスタートアップに関する相談が多い。「取り急ぎVCの持ち分の振り替え先を探したい」というニーズもあれば、「よりロングタームで経営できる体制を築きたい」と事業会社へのグループインを希望する声もある。

そんな中、ここに来てダウンラウンドIPOが相次いだことは筆者の想定外でもあった。2022年11月17日、大幅なダウンラウンドとなるnoteのIPOが承認され、その後数件のダウンラウンドIPOのニュースが続いた。

ダウンラウンドIPOは従来、VCにとっても起業家にとっても、極力回避すべき手段と考えられてきた。しかし、現在の先の見えない市況においては、これも現実的な選択ではある。VCにとって、投資先のM&Aは利確を意味するが、IPOであれば持ち株を保有し続けることにより、利確を先延ばしにすることもできる。

不況下では一般に、市場から厳しい評価を受ける企業が増える一方で、一部の勝ち組の企業は評価を高めるという二極化が起きやすい。2022年のスタートアップM&Aを振り返ると、まさにそうした勝ち組企業による積極的な打ち手が目立った。また、円安の影響もあり、海外ファンドの動きも活発化している。ここからは、話題となったM&Aに触れながら、2022年のスタートアップM&Aの傾向を振り返ってみたい。

ユーザベースにジェラートピケ、円安下で際立つ海外ファンドの躍進

「NewsPicks」の運営会社ユーザベースを米国の投資ファンド・カーライルが買収──去年11月のこのニュースがスタートアップ業界を騒がせたのは記憶に新しい。2022年のスタートアップM&Aのトピックとして、海外PEファンドによるM&Aが相次いだことは外せないだろう。

特に活発な動きを見せたのは、従来から日本企業に対するM&Aを積極的に仕掛けてきたベインキャピタル。2022年3月には「with」のイグニス、8月には「Omiai」のネットマーケティングと、マッチングアプリの運営会社を続けて傘下に加えている。11月には、ルームウェアブランド「ジェラートピケ」運営のマッシュに対するM&Aも発表し、注目を集めた。