日本発スタートアップへの関心を強めているのは、PEファンドだけではない。8月にはAmazon.comが「@cosme」運営のアイスタイルとの資本業務提携を発表。10月にはアクセンチュアによるAIビッグデータ分析のALBERTへのTOB(株式公開買付)もあった。

海外企業の動きがこれだけ活発化している背景には、為替の影響で日本企業が割安になっていることに加え、構造的な要因もある。特に米国では、上場企業に求められる四半期ごとの開示基準が日本より緩く、のれんを償却する必要もない。

このため、M&Aの成果に対して、投資家の目線は日本の場合ほどシビアではなく、買い手は今が好機と見れば、大胆なチャレンジをしやすい環境にある。海外企業による日本のスタートアップのM&Aは、今後もしばらく続きそうだ。

冬の時代に目立つ、キャッシュリッチ企業のM&A

2021年末の私の記事で「今後合従連衡が進む」と予測したSaaS領域では、2022年もfreeeとマネーフォワードの2強が活発な動きを見せた。freeeはMikatus、マネーフォワードはNext SolutionとのM&Aを発表した。両社はいずれもIT銘柄の株価が高騰していた2021年夏頃までに、海外公募増資による大型調達を実施。この不況下におけるキャッシュリッチ企業の代表格となっている。

DX領域では、M&A巧者として知られるSHIFTが、昨年も3件のM&Aを発表した。

メガベンチャーの中でも、株安の機会をとらえ、資金力を活かしたM&Aに乗り出す動きが2022年は目立った。5月にはDeNAが医療ICTのアルムのM&Aを発表。コロナ禍でメディアからの注目度も大きかったアルムには500億円超の評価が付き、スタートアップM&A史に残る大型M&Aとなった。

メガベンチャーではこのほか、サイバーエージェントがBABEL LABEL、ドラゴン東京と、クリエイティブ企業を相次いでグループに加えている。撮影サービスのラブグラフの子会社化などの買収を進めたミクシィの動きも目立った。

最後に、円安が続く中、日本発のクロスボーダーM&Aとして大型ディールが誕生したことに触れておきたい。フィンテック系のユニコーンであるOpnは11月、米国のMerchantEの子会社化を発表した。

OpnとMerchantEの件で特に注目したいのは、M&A資金の調達において、政府系金融機関の協力を得ている点だ。Opn共同創業者兼CEOの長谷川潤氏は、ロイターの取材に対し「岸田政権になったことは日本のスタートアップにとって追い風」と語っている。政府のスタートアップ振興策に期待が寄せられる中、本件は今後の日本発スタートアップにとって、1つのベンチマークとなりそうだ。