このプログラムのもう1つの目玉はアントレプレナーシップだ。フランスの大学で起業のコースや学内インキュベーターも開設された。他の政策の効果とも合わさって、フランスの大企業趣向の保守的なキャリア概念が大きく変わり、いまや起業は人気のキャリアパスと見なされ、フランスは世界に誇るスタートアップ先進国となりつつある。

日本でも、スタートアップエコシステムを経済界で盛り上げるだけではなく、国際人材・起業家人材を育てるための教育の改革を大いに期待したい。

指摘するまでもないが、日本の英語学習に若い国民が費やしているエネルギーは大変なものだ。にもかかわらず、実用的とはいいがたい。日本人の英語力は先進国最下位だ。一方、先進各国の全体的な初等教育水準を測るPISAによると、日本は20カ国中6位で悪くない(数学は堂々の1位、科学は2位)。とにかく英語教育の効率が悪いのだ。日本もフランスを見習って、意味のある時間の使い方に変革する必要があるということに疑問の余地はない。

起業教育についても、社会人になってからではなく、初等教育に組み込んでいくべきだ。僕の3人の子供は、米国の地元の公立学校に通っているが、自分が経験した日本の初等教育との違いに、感心させられている。

米国では小学1年生の時から問題解決や共同作業、プレゼンテーションがカリキュラムの中心にある。小学校卒業式の週に行われる学習の集大成は、なんとデモデーだ。全校生と保護者の前で、自分たちで考えた仮想のプロダクトについて、Y Commbinatorさながらのプレゼンをさせられる。ちなみにプレゼンに含めないといけない要件は、1. きっかけとなるストーリー、2. 課題、3. ソリューション、4. ビッグピクチャー(こんな世の中になるべき)、5. コールトゥーアクション(「買ってください」とか「投資してください」といったアピール)。このフレームワークを、11歳でマスターさせられるのだ。

フランス政府の施策がたった10年で若者のキャリア思考や文化を変えたことには、とても勇気づけられる。スタートアップを通じて日本の世界における存在感を取り戻すことは、我々大人が、子どもたちに負っている責任でもある。どんどん進化している世界の経済や教育に目を向けて、日本のスタートアップエコシステムを盛り上げていきたい。