これは、日本は国内市場が大きい(世界第3位の経済大国である)ことが1つの理由と考えられる。これが意味するところについて探りたい。
毎年新たに設立される会社の中で、VCから調達するスタートアップ(VC-backed)は1%未満。その特殊性は、求められる高い成長率にある。VCは投資対象に最低でも年率20〜30%の成長を期待する。
スタートアップがそのような成長率を継続するには、「巨大な市場」または「急成長している市場」を対象とする必要がある。米国と日本を除くほとんどの先進国は、自国市場の規模が充分大きくないため、スタートアップの多くが国外に展開することを前提にビジネスを行っている。そうじゃないと、高い成長を望めないからだ。
国内の多くのスタートアップがパイを狙う世界第3位の日本のGDPは、人口の大きさに依存しているといってよい。1人当たり購買力平価GDP(物価水準(インフレ率)を勘案したより実質的なGDP)は、先進国では下位グループだ(日本は人口で世界11位、1人当たり購買力平価GDPで世界39位)。そして、人口が1億人以上いる世界14カ国のうち、日本とロシアだけ、人口が長期的な減少傾向にある(ちなみに中国も人口が減り始めているが、それをはるかに超えるペースでGDPが伸びている)。
言いたいことはこうだ。日本のスタートアップにとって充分大きい国内市場は魅力だが、ベンチャー投資を行う世界の投資家の視点で見ると、成熟した日本市場は世界第3番目に競争力があるかというと、残念ながらそうはなっていない。国際的なスタートアップを生み出すフランスや韓国などの先進国や、億単位の人口を持ちながらも成長を続けるブラジルやインドネシアなど新興国のスタートアップエコシステムの方が、アップサイドの大きさという観点で魅力的なのだ。
そしてテックセクターの多くの分野で起こってきたことだが、日本のスタートアップが国外に進出してもしなくても、海外のVC-backedのテック企業は日本に進出してきている。国を超えた競争に、エコシステムとしてもスタートアップとしても巻き込まれるのは避けられない。
ほとんどの国のスタートアップエコシステムは、海外、特に米国のエコシステムとのつながりをもとに進化・成長してきたといってよい。米国での教育や起業を経て出戻りした自国の起業家や、海外からの投資家・起業家が、中国、韓国、フランスなど、各国のエコシステムの発展を引っ張ってきた。