「そうであれば、実は単価はその水準まで上げてしまってもいいかもしれない。場合によってはドラッグストアやスーパーの方々が、必要以上に安く売りすぎているケースもあり得ます。今後はデータを活用しながら、店舗とオンラインを合わせてどのように粗利をコントロールしていくかが重要になると考えています。必ずしも企業とお客様の体験がトレードオフの関係になるわけではなく、全体として気持ちのいい体験が必ず作れるはずです」(矢本氏)
Stailerでは事業者の販促をサポートする仕組みとして、クーポンの管理機能やレジ前(決済前)に商品を推薦する機能などを実装してきた。
今後はこうした機能も拡張していく計画だ。クーポンの対象や条件を商品ごとに柔軟に設計できる仕組みや、特定の顧客セグメントに対して値引きなどの施策を実施できる仕組みなどを検討するという。
アフターコロナの成長にも期待
2023年3月には複数の銀行などからデットファイナンスで15億円を調達し、事業拡大に向けて動いてきた10X。ただ、1年ほど前の段階では「市場」と「事業」に対して不確実性を感じていたと矢本氏は話す。
「ネットスーパーの領域がこの2〜3年で急速に盛り上がったのは、コロナの影響が大きかったです。それがアフターコロナの時代にはどうなるのか。小売企業がネットスーパーをやるモチベーションが下がっていくのではないか、お客様も利用しなくなるのではないか。その心配がありました」(矢本氏)
蓋を開けてみると、2023年に入っても各顧客がGMV(流通総額)や売り上げなどの指標を更新し続けている。中には年次2倍以上の成長を達成している顧客も出てきた。
初めてネットスーパーに挑戦した企業や、Stailerに切り替える前は苦戦していた企業においても成果がで始めたことで、「ネットスーパーに関しては、お客様が全く使わなくなるという可能性は低く、企業側のニーズに対してもしっかりと応えていけるという手応えをつかめた」(矢本氏)という。
近年の市場の広がりは、10Xに関連する話に限ったものではない。この2〜3年の間に新たにネットスーパーを始める、もしくは一度断念していたものを再開する事業者が増えた。
そのような企業を支える裏方として楽天全国スーパー(楽天)やJapan NetMarket(スーパーサンシ)などのサービスも生まれてきている。これらはStailerにとっての競合だ。
「ネットスーパーに取り組む企業は増えてきていますが、それに伴って伸び悩む企業も増えてきています。実際に『(他社サービスや自前で開発したもので)苦戦しているのでStailerの話を聞きたい』と問い合わせをいただくケースも多いです。10Xとしては、Stailerであれば本当に成長するネットスーパー事業が実現できるという立ち位置を確立していきたい。ピーター・ティールが小さな市場を独占することの重要性を説いていましたが、ネットスーパーはまさにニッチであるものの、魅力的な市場だと考えています」(矢本氏)