なぜそのようなことが起こったのか。矢本氏によると、オンライン販売を始めたことで「普段お店で買っていたものとは別のもの」が購入されるようになった。具体的には野菜ジュースや飲料水のケースといった重たいもの、食品、日用品といったものだ。
「ユーザーインタビューをしてみると、新たに購入されたものは、もともとAmazonなどで買われていることが多かったんです。ネットスーパーやネットドラッグストアは基本的に店舗と同じ価格のため、他のECサイトよりもお得な料金で購入できる可能性がある。しかも近隣の店舗から配送されるため、最短で当日中に商品が届きます。Amazonよりも早くて安いという体験は、大きなバリューになっています」
「要は『何と比べられているのか』が重要なんです。この事例の場合、比較対象となっているのはAmazonであり、Amazonでの消費を置き換えていることになります。そのため店舗の売り上げを奪うのではなく、店舗の売り上げにアドオンする形で、トータルの利用金額が増えました。実はこれと全く同じような現象が、他のネットスーパーやネットドラッグストアでも起きているんです」(矢本氏)
店舗内を歩き回って商品をくまなく探すのは大変だが、アプリではスマホを簡単に操作するだけで、さまざまな売り場を回覧できる。
オンラインを併用すると購入点数や利用金額が増える背景には、「アプリを使うことで新しい商品の発見につながっている側面もあるのではないか」というのが矢本氏の見解だ。
「アプリで買うきっかけ」をいかに作るか
もっとも、こうした体験を広げていくにはネットスーパーやネットドラッグストアのアプリを消費者にインストールしてもらう必要がある。そのためには「(アプリで)買うきっかけをいかに作るか」が重要で、10Xでもパートナーと試行錯誤をしてきた。
有効策の1つになりうるのが「アプリ限定の特売価格(10Xではバスケットスターターという名称)」だ。
普段であればもやしをカートに追加する人が約10%だったところ、限定価格で販売すると25%に増えたといったように、価格の影響は大きく「明確に巨大なリフト(利用者の増加)が起きる」(矢本氏)という。
「卵や牛乳、納豆といった日配品は購入頻度が高いので、こういうものが安いとアプリで買うきっかけになりやすいです。一方で何でもかんでも値引きをしていては、いつまで経っても事業として成立しない。例えばお水などの場合、お客様にとっては単に安いことが大事なわけではなく『普段使っているAmazonよりも安い』ことが大事なんです」