それならば、やりたい時だけ飲食店をできる“枠組み”があれば良いのではないか。脱サラをし、数百万円の借金を背負って店を始める。従来はそれが飲食店を開業するセオリーのひとつだった。しかし、少額の投資で飲食店を開業できて、営業したい日だけ営業する。そんな方法があれば、料理の“楽しみ”は失われずに済むはずだ。

そう気づいた福崎氏は、こっぺ食堂の仕組み化に取りかかった。目指したのは、飲食店が定休日や空き時間に場所を貸し出せるCtoCのウェブサービスだ。飲食店と飲食店をやりたい人を結びつけるこのサービスは、きっと新しい“枠組み”として受け入れられるはず──そんな期待に胸を膨らませていると、ある日突然、足元が大きく揺れた。東日本大震災だった。

「あと約1カ月でリリースできると思っていたときに、震災が発生したんです。これは飲食店向けのサービスをつくっているどころではない。まずは自分にできることをやろう、という想いに純粋に駆られました」(福崎氏)

レシピの会社から、料理の会社へ──クックパッドの変革を担う、日本事業のトップ・福崎康平の原点
 

このときに福崎氏がつくったのが、家を提供する人と家が必要な人を結びつけるサービス「roomdonor.jp(ルームドナー)」だ。先に着手していた飲食店向けのCtoCサービスの土台を活用したため、開発に時間はかからなかった。リリースは震災からわずか5日後。災害時にCtoCの支援を促す新しい仕組みとして、一気に広がっていった。

ところが、その陰で福崎氏の心は悲鳴をあげていたという。

「ローンチから3カ月間で、国内外のメディアや政府関係者から約200件ほど取材を受けました。投資家からもたくさん連絡がきて、いろんな人に『こうしたほうがいいよ』と言われるうちに、誰の言うことを聞くべきかわからなくなってしまったんです」(福崎氏)

当時はまだ19歳。ほとんど寝ずに対応していたこともあり、メンタルの不調を感じるようになった。「このままではいけない」と思った福崎氏はroomdonor.jpを畳み、休学して海外へ放浪の旅に出かけた。

「半年間、我を捨ててがんばってきました。でも、自分がやりたかったのは飲食店のサポート。おいしいものを食べたい、つくりたいという気持ちがあふれ出してきたんです」(福崎氏)

習いごとのCtoCサービスを経て、再び「食」の領域に

1年間で35カ国を周り、海外でもこっぺ食堂を開いてきた。現実から距離を置くための旅だったにもかかわらず、帰国後もサービスづくりへの想いは不思議と衰えていなかったという。現在はエンジェル投資家として活動する有安伸宏氏が立ち上げた、個人レッスンのマーケットプレース「サイタ」を運営するコーチ・ユナイテッドでインターンを始め、同時に知り合いだったクックパッドの佐野氏にも仕事の相談をしていた。