台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県の第1工場の建設に続いて第2工場への投資も決めたことで、早くも「第3工場」の誘致論が過熱している。早ければ、日本政府とTSMCとの誘致交渉は2025年にも本格化する公算だ。同時に政府はTSMCの前工程(回路を設計する工程)の誘致だけではなく、「後工程(先進パッケージング工程)」の支援にも意欲を高めている。特集『半導体 “狂騒”の真実』の#2では、TSMC誘致交渉の先行きを見通す。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
ソニー・TSMCのトップ会談で
動き始めた巨大プロジェクト
台湾積体電路製造(TSMC)が日本進出の意向を初めて示したのは、ソニーグループ幹部との会談の場だった。ソニーグループの吉田憲一郎会長兼最高経営責任者(CEO)は、2021年1月に台北市のホテルを訪れた際にTSMCのCEOである魏哲家(シーシー・ウェイ)氏から「日本進出の協力」を頼まれたのがきっかけだったと明かしている。
このトップ会談を受け、経済産業省はTSMCへの補助金投入を可能にする関連法案の準備に奔走し、ソニーはTSMCに代わって工場用地を自社の半導体工場の隣接地に用意するなど水面下の調整を続けた。その結果、TSMCが熊本県菊陽町に工場を建設することを取締役会で決議したのは21年11月9日。TSMCはソニーに日本進出の意向を示してからわずか1年弱の交渉で、日本政府を巻き込んだ巨大プロジェクトの礎を築いたことになる。
今年2月24日にTSMCが開催した「第1工場」の開所式は、TSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏が姿を見せた他、日本側からソニーの吉田会長やトヨタ自動車の豊田章男会長が出席するなど豪華な顔触れが集まった。このイベントの最大の目玉になったのが、日本政府が「第2工場」に7320億円もの補助金を投入すると表明したことだ。
5月に入ると、熊本県の木村敬知事が「第3工場」の誘致に意欲を示し、早くも次の交渉が始まろうとしている。
果たしてTSMCの日本進出には「続編」があるのか。次ページでは、TSMCの熊本進出の経緯を知る関係者の証言を基に、誘致交渉の「行方」を大胆に見通していこう。