7月、関西私鉄の雄、阪急電鉄が京都線で有料座席サービスに参入する。高級感が“お家芸”の阪急にとって、先行する競合を上回る評判にすることは、沽券に関わる至上命令のはずだ。片や、首都圏の有料座席サービス事情も考察すると、西と東の違いが浮き彫りになった。(乗り物ライター 宮武和多哉)
ついに阪急電鉄も参入!
関西で「有料座席サービス」がアツい
関西の鉄道各社で、通常運賃で乗車する列車に、指定席を設定する「有料座席サービス」の導入が、ここ数年で相次いでいる。「追加料金を払ってでも着席したい」という需要が顕在化し、各社のサービス導入に繋がっているのだ。振り返れば先陣を切ったのは、京阪電鉄が2017年8月に導入した「PREMIUM CAR」(プレミアム・カー)だったと言えるだろう。
プレミアム・カーは、通常運賃のみで乗車できる8両編成の特急列車のうち6両目に組み込まれ、アテンダントの丁寧なお辞儀に迎えられて、金色の乗車扉から乗車する。座席は快適そのもので、しっかり沈み込むヘッドレストや革張りのひじ掛けを搭載したリクライニングシートは、移動するというより「くつろぐ」「体を休める」といった表現がしっくりくる。1両当たりの定員は40名とゆったりしていて、コンセントと無料Wi-Fiも完備。400円~500円の追加料金で、このサービス内容なら、むしろお得な感じすらある。
一方、京阪と一部区間で競合するJR西日本では、新快速のうち1両を有料座席とする「Aシート」を19年に導入した。こちらも定員は44~46人程度で、無料Wi-Fiやコンセントなどのサービスは京阪に負けていない。座席は同社の有料特急列車の指定席とほぼ同じ仕様で、乗り心地はきわめて良好だ。追加料金は指定席券(全区間一律)840円もしくはチケットレス指定席券なら600円だ。
そして7月、ついに関西私鉄の雄、阪急電鉄が阪急京都線で有料座席サービスに参入する。その名も「PRiVACE」。阪急の象徴ともいえるマルーンカラーの車両デザインに、壁は木目調、床はカーペット敷きだ。座席は座面スライド式のリクライニング(東北新幹線E5系などで採用)を搭載し、ヘッドレストはプライバシーが確保されるパーテーション付きのもので、収納式のテーブルや読書灯も装備する。座席指定料金は500円(一律)で、競合他社と比べると一段上を行く、プレミア感があるものになりそうだ。
先行する2社は有料座席サービスが好調を保っている。京阪は上下線で1日約180本・約7000席を提供し、平均乗車率は平日8割、土日曜9割程度と、かなり高い利用率を維持している。25年秋にはプレミアム・カーの連結数を1両増やす予定だという。また、JR西日本も、中期経営計画をアップデートする中で、Aシートの追加投入を明言したところだ。
後発の阪急電鉄によるPRiVACE導入は、阪神阪急ホールディングス全体で行われる2900億円の成長投資(不動産事業など含む。22年発表中期経営計画)によって行われるもの。関西の鉄道各社の有料座席サービスは、全社的にも重視する投資の一環として行われているといっていいだろう。