「僕は『幸せの分母を増やす』をミッションに掲げて食に向き合っています。でも、幸せの分母を増やすために僕1人ができることは限られている。では、どうしたらいいのか。例えば、未来を担う子どもたちの生活を豊かにできれば、ミッションの実現に近づけます。ユーグレナのコーポレートシェフに就任することは、その一歩なんです」(鳥羽氏)

ユーグレナは、18歳以下の最高未来責任者(Chief Future Officer)を募集するなど、若い世代とタッグを組みながら環境問題に向き合っている。話題づくりで終わらずに、未来への投資にこだわる同社の姿勢には、鳥羽氏の信念にリンクする点が少なくなかった。

そもそもユーグレナの創業は、出雲氏が大学生時代に抱いた「途上国の貧困や栄養失調をなくしたい」という思いに端を発する。鳥羽氏とのプロジェクトは、その思いの延長線上にあるものだと言っても過言ではない。

プロジェクトの成功より、生きがいに懸ける

鳥羽氏が参画して、初めての取り組みが「ユーグレナ あとはおいしくするだけプロジェクト」だ。プロジェクトの第1弾として期間限定で発売(現在は販売終了)したお弁当「優弁(ゆうべん)」は、ユーグレナのスタッフに「想像を超える仕上がりだった」と言わしめた。

ユーグレナを使用した、お弁当「優弁(ゆうべん)」 画像提供:ユーグレナ
ユーグレナを使用した、お弁当「優弁(ゆうべん)」 画像提供:ユーグレナ

優弁の名は体への優しさと、優れた栄養価を表現したもの。ただし、ユーグレナはもともと藻の仲間でもあることから、そのままの状態では「おいしい!」と味が絶賛されることは少ない。食事として受け入れられるには、アレンジが必要だった。

しかし、これが難しい。これまでも“食のプロフェッショナル”たちをパートナーとしてタッグを組み、幾度となくレシピ開発に取り組んできたユーグレナだが、おいしさと栄養価のバランスをとることには苦労してきた。

例えばユーグレナを活用したパスタを開発した際も、独特の味をいかにマスキング(覆い隠す)できるかが最重要課題だった。

「ユーグレナを生かしたレシピ」ではなく、「ユーグレナを摂取できるレシピ」の開発が関の山であり、喫食機会の急拡大ができずにいたのだという。しかし、鳥羽氏が考案したレシピは、スタッフの誰もが「おいしい」と口をそろえる仕上がりだった。

ユーグレナが含むうま味成分・アミノ酸と、うま味に厚みを持たせるミネラルに着目し、その魅力を引き出すことに挑戦したという。

「ユーグレナは1日1000mgの摂取が推奨されているのですが、一品の料理にそれを入れると、どうしても味が落ちてしまっていたんです。どれだけ試行錯誤しても、その壁を超えられませんでした。でも、鳥羽さんのレシピは違ったんです。1000mg含有していながら、とてもおいしかった。驚きを超えて、感動しました」(出雲氏)