上述したようにCO2の排出量は活動量×排出原単位で算出できるが、排出原単位には海上物流のCO2排出量なども加算されるため、国によってこの数値が変わってくる。ものづくりに必要な原材料やエネルギーの多くを輸入に頼っている日本のような国にとっては、厳しいルール変更になりうるというのが渡慶次氏の考えだ。

「サプライヤーまでも巻き込んで、極限まで排出量の管理を細かく突き詰めていくことが、日本のサプライチェーンを維持するための唯一の生き残り手段だと思っています。これを支援するための仕組みを作ることで、国内のサプライチェーンをもう一度強いものにしたい。あるいは今後力を失っていくかもしれないものについても、復活の狼煙をあげてもらいたいんです」(渡慶次氏)

各国でルール整備が進み、急速に市場が拡大

渡慶次氏が「『CO2排出量の可視化』に関しては、各国で急速にルール整備が進んだことで巨大な市場がいきなり生まれた」と話すように、この領域は今まさに関連するプレーヤーがどんどん増え始めている状況だ。

グローバルではPersefoniが10月29日に1億100万ドルの資金調達を発表(同ラウンドでは三井住友銀行も株主として参画)。マイクロソフトのような大手企業も参入している。

日本でもアスエネやオンドなど複数のスタートアップが2021年に入ってサービスの提供を始めた。

「(プロダクトの機能や使い勝手の良さは大前提として)いかに早く主要な企業を巻き込み、パートナーシップを組めるか。ビジネス構築力が鍵を握る陣取り合戦になると考えています」(渡慶次氏)

ゼロボードではすでに関西電力やSAPなどと協業に向けた取り組みを始めているほか、大手金融機関との連携も水面下で進めているという。

パートナーが増えればzeroboardの提供価値も広がる。たとえば事業会社と連携して脱炭素を後押しするソリューションを提案したり、金融機関とタッグを組んでグリーンローンを提供したりといったことも可能になるだろう。

「ESG投資に取り組んだ方が企業価値がプラスになるということにさまざまな企業が気付き始めている。これがすごく重要な論点です。CSRでやっている時代にはずっとコストだとされていたので、業績に余裕のある企業がやるものでした。それが今はやらなければ企業価値が落ちるということが明らかになり、海外企業だけでなく、日本の企業も戦略的に取り組み始めています」

「自分自身、金融部門にいたことで金融業界側からの(企業のCO2排出量に関する)開示のプレッシャーが徐々に強くなってきているのを感じていました。また商社でエネルギー×ITの事業も現場で経験させてもらった。今の事業は言わば自分のこれまでのキャリアの交差点にあるようなイメージで、天職だとも感じているんです。zeroboardが脱炭素経営のインフラのデファクトスタンダードとなるように、まずは国内からしっかりと事業を作っていきます」(渡慶次氏)