日本企業「人的資本開示元年」、充実度上位に保険・銀行!顕在化した課題とは?Unipos 田中 弦 社長
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

 2023年3月期決算以降、すべての上場企業を対象に、有価証券報告書での「人的資本」の情報開示が義務付けられた。人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで持続的な企業価値向上につなげる「人的資本経営」は、今後いっそう強く求められる。本稿では、今期に開示された人的資本情報を独自に調査・分析した結果をもとに、日本の現状と課題を示唆する。

関心が高まる人的資本の情報開示

 経済産業省が取りまとめた「人材版伊藤レポート2.0」などの公表で、人的資本情報は企業価値評価における重要な指標に位置付けられ、関心を集めている。こうしたムーブメントの背景には、これから到来する未曽有の人手不足問題を解決するため、個人の能力を最大限発揮する手段として注目が集まっていることがある。2040年には、日本の労働人口は1,100万人不足するとのリクルートワークス研究所の予測も出ており、人手不足が社会問題として深刻化することが想定される。

 私は人的資本経営を「個人の持つ人的資本を十分に発揮するための土台を再構築し、組織的人的資本を創出する経営」と解釈している。人的資本は消費するものではなく、投資対象である。人的資本の成長のために最適な投資を行い、企業価値を高めるとともに、非財務情報を開示することで投資家や従業員など、さまざまなステークホルダーに向けてアピールすることができる。

 投資判断において人的資本を評価する認識が広まるなか、23年3月期から全市場の上場企業約4,000社(および上場準備企業約500社)を対象に、有価証券報告書での人的資本に関する情報開示が義務付けられた。

 従来、プライム市場・スタンダード市場に上場している企業の一部は、統合報告書を通じて、任意で人的資本の情報開示に取り組んできた。SDGs・ESGの重要性が世界的に高まるなか、21年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードにも、人的資本の情報開示が盛り込まれている。今回、これが新興企業など比較的規模の小さいグロース市場の上場企業も含めて義務化された。

 このタイミングで、いかに人的資本への投資を加速させるかが重要である。開示を通じて人的資本の価値向上に努め、成長に向けた経営の在り方を世の中に約束することが、人的資本経営の肝となる。