日本製鉄、トヨタ、住友化学…10社の「CO2排出量」を独自推計!公表値と比べると…Photo:metamorworks / PIXTA
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

 脱炭素の流れが強まるなか、金融機関には投融資先のCO2排出量まで把握することが強く求められている。一方で、中小企業を含めた排出量の推計には多くの困難が伴う。本稿では、売上原価率の原油価格変化に対する感応度を用いることで個別業種や個別企業のCO2排出量を推計する手法を示すとともに、環境省や個別企業が公表している数値と比較し、その精度の程度を示したい。

取引先企業に係るCO2排出量推計の難しさ

 脱炭素化の推進が国内外のさまざまな主体によって強調されている。そうしたなか、金融機関にとっての最大の課題の一つが、投融資先のCO2等排出量(注1)である「ファイナンスド・エミッション」を削減に導くことである。そのためには、金融機関がなんらかの方法で投融資先のCO2排出量を把握する必要がある。その一方で、投融資先がこうした情報を公開していなければ、その把握は極めて難しくなる(公開していても、通常、その数値の正確さを検証することは難しい)。

 そこで多くの金融機関は、ファイナンスド・エミッションを推計する際に、投融資先が自らデータを公表していない限り、外部ベンダーの推計値あるいは外部ベンダーと同様の手法で自らが推計した値を使用することが多い。通常、外部ベンダーは、業種/事業特性/地域等ごとに公表されている活動量(売上高、生産、サービス提供量等)とCO2排出量に係る情報および一部の個別企業の公開情報を併用することで、特定企業のCO2排出量をその企業が置かれた状況(活動量、産業、事業特性、立地など)を踏まえ推計している。

 一方、前述の推計手法は、当該企業の「業種分類」に決定的に依存しており、業種分類が正しくなければ、その推計値も誤った前提の下に算出されたものとなる。業種分類が正しくない要因としては、(1)金融機関が従来用いてきた日本銀行の業種分類が、必ずしも最近の企業行動の変化を反映したものになっていない、(2)金融機関の業種分類が、必ずしも経済活動実態の「変化」に基づきアップデートされていない、(3)近年では、異なる業種分類にまたがるビジネスを営む企業も増えているが、1企業に与えられる業種分類は一つのみである、(4)業種内でも個別企業ごとの多様性が大きい場合、一つの平均的姿を標準形として同業種に属するすべての企業に当てはめることに無理がある──などが挙げられる。