井下氏は「当時はスマートフォンが出て来るとは思ってもいなかった」とふり返った上で、「ネットで完結するイノベーションは我々が創業する前にかなり出尽くしていた。時代の流れの最初にいたらチャンスが一番広いんじゃないかと思い、まだプレイヤーがいない『ネットとリアルの融合』という領域に踏み込んだ」と説明した。

 150もの事業アイディアを捻出した上で、自身が特に課題を感じていたクリーニング業界にイノベーションを起こすという決断を、井下氏は下した。

 「ネットとリアルの融合」と言えば、米ウーバー(Uber)が手掛けるライドシェア事業のように、労働力(ギグワーカー)を業界外から調達するビジネスモデルが連想される。だが、サービス品質を担保する上でも、また事業を持続可能にするためにも、リネットは既存産業と寄り添うアプローチを取った。

 ライドシェアサービスのUberは2015年、無許可でタクシー業を行う「白タク」を禁止する道路運送法に抵触する可能性があるとして国土交通省から「待った」をかけられたのち、わずか1カ月ほどで国内での実証実験を中止した。日本交通を筆頭としたタクシー業界からの強烈な批判もあり、日本では未だにライドシェアは定着していない。

 このような事例からも分かるが、ディスラプト(破壊的創造)が成り立ちにくい日本では、既存産業をアップデートするにはリネットのように業界と「力を合わせる」ことが最善策となるケースが多いと言えるだろう。

「ギグエコノミーを活用したサービスには既存産業が仕組化して安全性を担保するために行う投資をそぎ落とし、質が悪くても別の利便性を持って提供するものもある。我々のアプローチは違う。リネットでは既存のクリーニング工場の空いている時間を使うのではなく、既存のクリーニング工場の稼働率を最大化する。ネットを介することで、既存のクリーニング産業と顧客をより最適な形で接続した」(井下氏)

総額15億円の資金調達でさらなる認知度向上を目指す

 クリーニングの需要規模は1992年に8170億円でピークを迎えてから縮小が続いており、2016年には3692億円と約半減した。まだ多くの店舗を街中に見かけるため実感しづらいが、取次店も減少傾向にある。ピークの1998年に12万軒ほどあった店舗は、高齢化などが原因で2015年には約7万軒にまで減少した。

 減りつつある取次店の役割を担い、縮小傾向にあるクリーニング業界を活性化するため、ホワイトプラスではリネットの開発を進め、顧客体験を高めることで事業の急成長を目指している。