こうして2009年の10月、井下氏はインターネットで完結する宅配クリーニングのサービスを始めた。だが、ネット宅配クリーニングは、受発注をネット化し、顧客の自宅までの集配ができれば簡単に成立するというものではなかった。ネットビジネスに「楽して稼ぐ」といったイメージを抱く職人気質の業界人を説得し、アナログな産業をネットに最適化するには「3年を要した」と井下氏は説明する。

店舗を持ち全作業工程のネット最適化にこだわる

 リネットの事業は物流業者やクリーニング工場などといった提携パートナーとの連携により成り立っている。物流ではヤマト運輸やソフトバンクグループのマジカルムーブ、そしてクリーニング工場とは10社ほどと提携している。今でこそパートナー同士をうまく連携してサービスを提供しているが、サービス開始当初はクリーニング工場という「リアル」をネットに接続するための最適化には特に手を焼いたと井下氏は言う。

ネットで依頼「宅配クリーニング」スタートアップ、15億円を調達して次なる挑戦早朝深夜の配達はマジカルムーブが提供する「Scatch!(スキャッチ)」の配達員が担当する 提供:ホワイトプラス

 通常、クリーニング工場は受付や検品、受け渡しなどを行う取次店、いわゆる「街のクリーニング屋さん」を介し、サービスを提供している。リネットも提携クリーニング工場の取次店的な役割を担うが、最大の違いは配達員が品物を受け取るだけで、対面接客がないことだ。そのため「店舗でやっていた作業をどのようにしてオンラインで対応できるか」(井下氏)を考える必要があった。

 そこでホワイトプラスでは、クリーニング師の資格を取得して実際に店舗を持った。ネットで受け付けた注文を自ら仕分けして提携工場に送り、作業が完了した衣類を顧客へ配送するといった流れを経験することで「オンラインでも成り立つ仕組み」を1から設計した。

 例えば「ここにあるシミはどうしますか?」といった類いの確認は対面接客においてはたやすいが、メールなどでは待ち時間が発生する。そのため「シミがあるので取っておきます」といった具合に先手でコミュニケーションをとる方針にした。

 また、大量の衣類の中から特定の顧客のものだけをトラッキングできるようなシステムを構築。受注の際にそれぞれの衣類にバーコードの付いたタグをつけ、作業完了後、全ての衣類が揃っているかをバーコードで確認する。このシステムをパッケージ化し、各工場に導入していった。

既存産業を“破壊”しないアプローチ

 なぜ、あえてネットとリアルを融合しなければならない困難な領域を選んだのか。ホワイトプラスが設立された2009年は、ちょうどiPhoneが初めて日本で発売開始された直後。スマートフォンが本格的に普及する前の話だ。