Everyには、ももとパッドの間にゆとりがあって動きやすいソフトフィットモデルとホールド力が高く少し屈んだ状態でも補助力がかかるタイトフィットモデルがあり、いずれも価格は14万9600円(税込)。発売から約4カ月の3月2日時点で、Everyは6000台以上を出荷し、イノフィスのマッスルスーツ全体では出荷台数が1万台を突破したという。
「夢のようなロボット」ではなく、現場の問題を解決する「人のためのロボット」
イノフィスは2013年に設立された、東京理科大学発のスタートアップだ。2019年12月にはハイレックスコーポレーション、Fidelity International、ブラザー工業、フューチャーベンチャーキャピタル(ロボットものづくりスタートアップ支援ファンドによる引受)、ナック、TIS、東和薬品、トーカイ、ビックカメラなどから総額35億3000万円の調達を実施しており、これまでの累計調達額は49億4100万円にのぼる。出資企業のひとつであるナックが運営するウォーターサーバーサービス「クリクラ」でも、ボトルの運搬などの作業時にイノフィスのマッスルスーツが使用されているという。
2000年から東京理科大学で人工筋肉を使用したウェアラブルロボットを研究している小林宏氏(現取締役)がイノフィスを創業したのは、民間の訪問介護業者からの依頼がきっかけだった。
訪問介護では、移動式の浴槽に入れるなど、寝たきりの患者を抱え上げるような場面が多々ある。肉体的な辛さから、多くのスタッフは50歳を迎える前に辞職してしまうのだという。「こうした課題を解決するために、立ち上げられたのがイノフィスです」と代表取締役社長 執行役員CEOの古川尚史氏は説明する。
「イノフィスが目指すのは、『人のためのロボット』を生み出すこと。一般的に大学発スタートアップというと技術ありきの企業だと想像されがちですが、イノフィスは現場の声を聞いて訪問介護従事者の課題を解決するために技術を結集させました。現在、弊社ではいくつかの製品を開発していますが、いずれも現場で作業に従事するエンドユーザーとともに開発しています」(古川氏)
イノフィスでは、依頼主に対してコンサル料や製品の開発費用を一切請求せず、完成品の購入時に初めて料金をもらうようにしている。もちろん1社だけで開発コストを回収することはできないが、古川氏はそれでもこのやり方に自信を持っている。
「現場のニーズに即した製品はきっと市場で広く評価される。実際、当初は介護現場向けに開発したマッスルスーツが、いまでは建設現場や工場、農場など、重労働で若者人口が不足しているあらゆる業界で活用いただいている。『現場を支援したい』という小林先生の思いと、ビジネスを成立させるための方法論が両立した結果が実を結んだのだと思っています」(古川氏)