ポイントは“扉の突破”と“順番” 

 不在時の配達における最大のポイントは、「いかに扉を突破するか」である。

 ビットキーが取り組んでいるのは、集合住宅の“オートロック”という最初の関門を、スマートロックによって突破することだ。ビットキーが提供するスマートロックを導入している集合住宅であれば、配送業者が一時的に中に入ることのできるワンタイムチケットでオートロックを乗り越え、確実に玄関前まで「置き配」できる。現在、集合住宅でのビットキー導入と宅配サービスとの提携を両軸で進めている。

 もちろん、オートロックという第一関門に続いて狙うのは、「部屋の扉」という次の関門である。新鮮な食材や重量のある荷物が、不在時に屋内まで届いたら便利なのは言うまでもない。しかし、セキュリティや心理的ハードルを考えるとまだまだ難度が高い。実際、現時点でアマゾンなどが提供している置き配も、自転車のカゴや宅配ボックスなど、設置場所は屋外が対象になっている。

宅配クライシスの救世主は、アマゾンではなく「鍵ビジネス」かもしれない江尻 祐樹(えじり ゆうき) 1985年生まれ。大学時代は建築/デザインを専攻し、リンクアンドモチベーショングループ、ワークスアプリケーションズなどを経て、ビットキーを創業。P2P・分散技術を活用した、全く新しいデジタルキーの基盤を開発し、事業化した。

 この点についてビットキーの江尻祐樹社長は、「不在時のサービスは順番が大事」と語る。

「心理的なハードルには無意識の線引きがあり、ある一線を越えなければ利便性が勝つんです。例えば、合鍵を渡すのは抵抗があっても、時間を限定して入ってもらうのなら便利だと感じるようなイメージ。消費者が“気持ち悪い”と感じない範囲から、便利な体験を広げていくように心がけています」(江尻社長)

 消費者の不信感を招かないよう慎重に進めているものの、いずれは屋内までサービス拡大を目指している。そのための突破口は、「“屋内に入るのが当たり前のサービス”と“ブランド”の掛け合わせ」だという。

 先述した家事代行サービスCasyとの提携は、まさにその一環だ。「郵便物が部屋の中まで届いたら怖いですけど、家事代行だったら部屋の中に入るのが当たり前です。また、無名の宅配業者よりもヤマトのブランドネームがあるだけで安心感があります。これらを掛け合わせ、セキュリティ面の開発も行うことで、違和感のない形で屋内配送の普及を目指します」(江尻社長)。

スマートロック自体に価値なんてない

 ビットキーは、2018年8月創業という文字通りのスタートアップだが、わずか1年で累計10億円の資金調達を達成している。また、販売開始からわずか2ヵ月で、5万台のスマートロックを普及させた。競合他社より数年遅れて参入したが、一気に追いついた。

 急成長の理由の1つは“価格帯”だ。他社が初期費用に加え月額・数千~数万円で提供しているのに対し、初期費用0円、月額300円という、破格の安さの月額課金モデルで提供している。セキュリティなど質を担保したままで、この価格帯が実現できる裏には、スマートロックの販売自体には利益を求めない徹底した姿勢がある。