宅配クライシスの救世主は、アマゾンではなく「鍵ビジネス」かもしれない初期費用0円、月額300円で提供している『bitlock LITE』(提供:ビットキー)

「スマートロック自体に大した価値はないと思っています。企業ならまだしも個人で鍵にかけられるお金なんて、せいぜいワンコイン程度でしょう。でも、不動産管理や宅配業のように、スマートロックが普及することで生まれる付加価値はある。私たちは鍵自体ではなくて、それに付随して変革できる空間や時間の価値がマネタイズポイントだと考えているんです。“人は不便の解消にお金を払う”ものです」(江尻社長)

 

急速な普及の裏側にある“圧倒的な営業力”

 急成長を遂げているもう1つの理由は、セールス力だ。マーケティングや開発に注力するスタートアップは多いが、セールスが売りなのは珍しい。

 ビットキーは元々、大手企業向けのERP(統合業務基幹システム)パッケージを開発・販売するワークスアプリケーションズに勤めていたメンバー3人で創業した。その1人である福澤匡規氏は、ワークスアプリケーションズ時代、一度の商談で数千万から数十億円規模を売り上げ、東日本の営業を統括する、“超”がつくほどのトップセールスマンだった。その福澤氏が起業したという話を聞きつけ、ビットキーに集まった営業部隊が、武器になっている。

「特に大企業へのセールスが強みです。マーケティングツールを使って地道にリード(見込み客)を獲得するのに比べ、『とりあえず5000台入れましょう』の一言で大型受注が決まりますからね。スピード感が違います」(江尻社長)

 スタートアップは開発費や在庫管理など、膨大な初期コストがかかるハードウェアビジネスを敬遠する傾向にある。しかし、ビットキーはその営業力を後ろ盾に、販売開始から毎月、万単位で売り上げが伸びている。だからこそ、製造コストがかかっても、低価格&大量生産ができるのだ。

普及後に生きるセキュリティ技術

 そして、この低価格とセールスで急速に普及拡大するビットキーの戦略には、モデルがある。

 「Yahoo!BB」を立ち上げ、4000億円もの赤字を出しながらもブロードバンドを普及させた孫正義氏だ。孫氏は、リテラシーの高い“オタク”層がプロバイダ契約して使用しているだけだったインターネットのモデムを、初期費用無料の使い放題2980円で打ち出し、一気に2000万世帯へ普及させた。そしてインターネットの普及で盛り上がったオークションやニュース事業などのネットサービスで売り上げを伸ばした。

「インターネットに法人も個人もないのと同じで、家もオフィスも関係なく、すべての扉をスマートに変えるビジネスだと思ってやっています。だからこそ、まず普及させることが大事。メッセージアプリも、結局LINEだけが残りましたよね。ある程度普及すると、“みんなが欲しがる”正のスパイラルに到達するんです。スパイラルの臨界点まで生き残れるか、面取り合戦ですね」(江尻社長)