アルムナイの活用方法はさまざまだ。“出戻り”として再雇用するだけでなく、業務委託として契約して外部から支援を受けたり、転職先の企業とパートナーシップを組むようなケースもある。

元社員という「宝の山」を活かす、退職者コミュニティの威力アルムナイ同士で、求人情報や業務委託など協業の話をしているイメージ(提供:ハッカズーク)
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「『アルムナイ=出戻り採用』だと誤解されていることも多いんですが、実は業務委託やパートナーシップの実例もすごく多いです。それぞれ別の会社に散らばった元社員同士が連絡を取り合い協業するなど、ビジネスマッチングの機会にもなります」(鈴木社長)

 いずれにせよ、実際に社員として働いた経験があり、会社のことをよく理解しているからこそ、再雇用でも協業でも、新たに始めるより円滑に進むのだ。

「アルムナイの考え方が浸透していくと、少しずつ『辞める=気まずい、裏切り』という価値観が変化していきます。今は円満に辞めることが難しいケースも少なくないですが、『退職後も元社員としてつながっていく』と考えられるようになると、退職者側も企業側もポジティブに受け入れることができます」(鈴木社長)

じわじわと広まる“アルムナイ”の活用事例

 アルムナイの活用は2006年頃から米国で始まったが、日本で本格的に制度化され始めたのは、2017年頃からだと鈴木氏は説明する。それ以前にも、帝人が退職後10年以内の正社員を再雇用する制度「Hello-Again」を実施したり、Sansanの寺田親弘社長の呼びかけで三井物産の社員たちが集う「元物産会」があったりと近しい取り組みはあったが、ここ2年ほどで急増した。

 例えば、ANAグループが運営する卒業生コミュニティ「ANA Sky Community ~ソラミテ~」というウェブサイトがある。会員数は8300人ほどで、そのうち再雇用希望者は7割を超える(2018年1月時点)。ANAで質の高いサービスの教育を受けた人材をコミュニティに確保しておき、業務のニーズに合わせて再雇用しているのだ。

 また、大学生のアルバイトをアルムナイ組織化する事例もある。東京個別指導学院では毎年1500人前後の大学生講師がアルバイトを卒業する。直近20年で約6万人のアルムナイが存在し、それぞれが社会で活躍している。そこで、アルムナイが現役講師の就職活動を支援したり、異業種交流の機会を設けたりして、コミュニティの付加価値をつけている。

普及しづらい背景にある「日本人の固定観念」

 事例が増えつつあるとはいえ、海外に比べると日本では浸透しにくいのも事実だ。人事担当者がアルムナイの活用に前向きでも、決裁権を持つ役員クラスになった瞬間、昔ながらの「辞めること=裏切り」とする考え方で、実施に至らないケースもある。