ここ数年でドローンに関する技術は大きく向上すると同時に、低価格化が進み、手軽に買える製品も増えつつある。しかし、エアロネクスト代表取締役CEOの田路圭輔氏は、「その大半は機体を制御するソフトウエアの部分。ハードウエア(機体)の構造自体は約30年間にわたって大きな変化はありません」と説明する。

「これまでのドローンが飛行部と搭載部が一体になった『空飛ぶカメラ』だとすれば、エアロネクストのドローンは自律的・安定的に稼働する『空飛ぶロボット』。基本性能が高まれば既存の役割をより高度にこなせますし、橋梁・基地局の点検や配送といった産業利用にあたっては、より安定的な飛行を可能にした機体が不可欠になります。さらに、天井に貼り付く、カメラを上に伸ばす、噴射して発車する、ほかのドローンと合体するといったこれまで想定できなかった動きが可能になります」(田路氏)

 すでに空撮用の機体や、橋梁の点検や配送への利用を想定した産業用機体を開発。2020年上旬には一般販売する予定だという。

人を乗せる「空飛ぶゴンドラ」も発表

「空飛ぶゴンドラ」をコンセプトにした「Next MOBILITY」。通常のドローンのように、内部の操縦士なしで飛行する 提供:エアロネクスト「空飛ぶゴンドラ」をコンセプトにした「Next MOBILITY」。通常のドローンのように、内部の操縦士なしで飛行する 提供:エアロネクスト

 エアロネクストでは、10月に人を乗せることができるドローン「Next MOBILITY」も発表している。「空飛ぶゴンドラ」をコンセプトにした機体は、4D GRAVITYを応用した技術によって人が乗るキャビンと、翼やプロペラといったボディーを独立させている。飛行時にはボディーのみを傾斜させるので、キャビンを地面に対して水平に保つことができる。

「ゴンドラのような形状を選んだのは、キャビンを水平に保ちながら飛行する仕組みが、まさに遊園地の観覧車のようだからです。また、『人を乗せるドローン』と聞いて多くの人はSF映画などに登場する空飛ぶ車をイメージしがちですが、それが実現するのはまだ先の話。それよりもまずは観覧車の“進化型”でいい。自由に空の景色を楽しむ体験を通して、ドローンでの飛行に親しんでもらえればと思っています」(田路氏)

ヒト・モノ・カネに依存しない「無形資産経営」

 技術開発ともにエアロネクストが注力するのが、IP(知財)の管理だ。これまで約20件の特許を取得し、4D GRAVITYを中心とした特許ポートフォリオを構築。社員11人ながら知財を担当するCIPO(Chief IP Officer)と、ライセンス実務に携わる弁理士経験者を有している。田路氏は内閣府知的財産戦略本部の「構想委員会」委員にも就任している。

 彼らがIP管理を徹底する背景には、田路氏のキャリアがある。エアロネクストはドローン開発というテクノロジー企業のトップでありながら、田路氏には新卒で電通に入社した後、電通と米国企業が合同で設立した企業でテレビ番組表「Gガイド」普及のために奔走するなどしており、技術開発の経験はない。