こうした大学院教育の環境を改善し、未来の日本でイノベーションを起こす人材を発掘すべく2018年度から始まったのが、「卓越大学院プログラム」だ。文部科学省の指揮のもと、各大学が企業や機関と連携して作った5年一貫の博士課程学位プログラムである。
国を挙げて「スペシャル博士」を育成する
初年度(2019年度)は実施校として13大学15件が採択されたが、そのひとつが東北大学で、『人工知能エレクトロニクス(AIE)』という新分野が選ばれた。
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AIEとは、AIに関わるハードウェアとソフトウェア、また、その双方の構造化(アーキテクチャー)という3領域で構成され、1つの分野を深く研究していくだけでなく、複数の分野を横断的に学び、全体を俯瞰して見ることができ、新産業を創出できるイノベーターの育成をゴールに置いている。
AIEエレクトロニクス教育研究センターでセンター長を務める東北大学教授・金子俊郎氏は、「卓越大学院プログラムは全員がアカデミックに残る時代ではないからこそ、必要だ」と主張する。
「博士課程まで進学すると、大学に残って研究者として生きるイメージが強いですが、最近は違う。私が担当している電子情報応物系学科でも5割の学生が、博士課程修了後に産業界へ就職しています。博士人材のキャリアパスは大学側が真剣に考えなければなりません」(金子氏)
そのため、企業と接点を持つことのできる産学連携((新技術開発や新事業創出を目的として、大学などの教育機関・研究機関と民間企業が連携すること)教育の部分は特に力を入れている。学生からすれば、自身の研究が社会でどのように役立つのかを知りながら、実践力を身につけることができるのだ。
また、経済的不安を取り除くために、最大月20万円の教育研究支援経費を支給している。これは、文科省からの補助金と、産学連携教育として共同研究をする企業の支援金、学内の教育支援金から捻出している。
企業を「知りながら学べる」実践型教育
プログラムは2軸を連動させて進める形式をとっている。学問分野の研究者による講義で俯瞰力を養う「学際融合教育」と、民間企業の研究者と大学研究者が協働で実施する「産学連携教育」だ。
学際融合教育は、AIEが強みとしている3分野「スピントロニクス」「自然言語処理」「量子アニーリング」をはじめ、博士課程修了に必要な知識を付けていくカリキュラムだ。また、4~5年次には、グローバル科目として英語での講義が中心となる。
産学連携教育は、企業と連携して大学の中で実践的な教育を実施するカリキュラム(2020年4月より開始予定)。学習と研究の掛け合わせなので、共同研究のイメージに近く、NEC、東芝、KDDIなどの大企業が参加予定だ。