「講師陣は、実際に民間企業で活躍する研究者です。1社ごとに綿密にカリキュラムを練っていて、企業によって集中講義や週2回の講義など、形式や頻度もバラバラ。産学連携はうまくいかないことも多いと思いますが、企業とアカデミアが一緒にやっている意識を持つことで正の循環を期待しています」(金子氏)

 学生にとっては、企業のマインドを持ちながら学ぶことができる貴重な機会になる。就職志望の場合はもちろんのこと、研究者志望の場合であっても、企業の考えや社会への影響を知ることは決して無駄にならない。

「卓越大学院」で見つけた新しい道

 実際にAIEプログラムに進学している第1期生は全部で35人。参加する学生の声は明るい。

 医工学研究科博士課程1年の池田隼人氏は、就職するつもりで得た内定を断って、AIEに進学した。池田氏の所属する医工学研究科では40人中3人がAIEに進学したが、そのうち2人(池田氏を含む)が企業の就職内定を辞退したという。

「修士までだと推薦で良い企業に行けるのに、博士まで行くと就職先が見つからないと言われていたので、本当は研究したいけれど進学を諦めていたんです。でも、AIEは就職を後押ししてくれるプログラムが良かったのと、通常の博士課程だとこれまでの実績や論文が一度リセットされてしまうのですが、AIEだと研究活動を引き継いで進めることができるのも決め手になりました」(池田氏)

 池田氏は、修士課程まで超音波によるがん治療を研究したくて進学していたが、「ほかの治療法を知れないのが悩みだった」と言う。

ビジネスに変革を起こす「スペシャル博士」、育成目指す大学院改革経済面とキャリア面の支援 提供:AIE
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「一番いい治療法は何かをふかんして考えたかった。もしかしたら、超音波ではなく、人工知能やハードウェアかもしれない。企業に入ると、どうしても本質から遠ざかってしまいますが、AIEならこれまでの知識を生かしながら、本質を学べると思ったんです」(池田氏)

 また、理学研究科の修士課程1年、馬場晶子氏は次のように話す。

「私の所属する理学研究科では、企業と一緒に研究する機会がないので、実際に自分の研究が社会にどう生かせるのかがわかりませんでした。研究と社会の関係を考えずに、アカデミックな領域でやりすぎるのではなく、企業のニーズを知りながら研究もできる、“どちらもできる環境”なのが良いと思いました。出口がわかっていると、やる気が出るんです」(馬場氏)

 実際、馬場氏の周りでも、自分の研究分野以外の広がりがなく、研究のモチベーションが維持できずに、研究分野とは関係のない教職やエンジニアになる人が多いという。