──努力が実を結んだわけですね。

上野 その後も、現状に甘んじず、新しい事業に挑戦してきました。私が入社してから、新たな柱の一つとして育ててきたのが「レーザクリーニング」です。

 これは対象物にレーザ光を照射し、対象物の表面から汚れを除去する技術。例えば、射出成形の金型に付いた樹脂やゴムのように、金属に付着した汚れを、金属を溶かすことなく除去します。レーザ加工のノウハウを生かして専用の機械を開発しました。洗浄廃液や騒音が発生しないので環境にも優しい。数百万円する高価な機械ですが、発売から9年間で100台以上が売れました。

──こちらは順調にいきましたか?

上野 こちらも難航し、開発に着手してから発売まで10年を費やしました。既にドイツ製品が市場に出回っていたのですが、その商品と戦える価格まで下げるのが難しかった。最初の試作品の価格は1500万円で、「高価過ぎる」と言われました。しかし、海外製品はメンテナンスに不安があるし、生産拠点の国内回帰が進んでいるのでチャンスはある、と諦めずにコストダウンに取り組んだ結果、10年で当初の半値まで下げられました。

 発売後も苦戦し、1年目の売上台数はわずか1台でしたが、ニーズに合わせて製品を改良し、システムアプリの会社の協力を得て洗浄工程を自動化できるシステムを開発。PRの方法も試行錯誤してようやく売れるようになりました。

──こちらの事業も、諦めなかったことで、活路を見出せたわけですね。

上野 2代目経営者によくあるように、私も先代の父に反発したことはありましたが、父の考え方をアレンジしてまねしているところはありますね。

3人で始めて電子ビームの第一人者に 諦めない精神で新たな商品も開発アーク溶接の5000倍ものパワーを持った「電子ビーム溶接機」
●東成エレクトロビーム株式会社 事業内容/電子ビーム受託加工、レーザ受託加工、ウォータージェット受託加工他、従業員数/82人(グループ)、売上高/11億円(2022年度)、所在地/東京都西多摩郡瑞穂町高根651‐6、電話/042‐556‐0611、URL/tosei.co.jp

 諦めずに挑戦し続けられた要因には、資金を調達し続けられたこともあります。補助金の活用の他、金融機関からも融資を受けてきました。西武信用金庫さんはその一社です。西武信金さんからは先代がさまざまな提言をしていた関係性もあってか、お客さまやパートナー企業の開拓につながる展示会をご紹介いただきましたし、直近でもイノベーションピッチへの参加のチャンスを頂きました。

──今後の抱負をお聞かせください。

上野 先代が大事にしていた「利他」の発想で、日本でしかできない社会課題を解決していくものづくりをしていきたいと考えています。

 10年ほど前に社長に就任しましたが、私の代で始めたことで、まだ大きな成果は出せていません。新たな柱となるような製品を開発できたときに、名実共に社長になれるのではないかと思っています。

(取材・文/杉山直隆、協力/西武信用金庫、「しんきん経営情報」2024年1月号掲載)