お金を語ることは
人生の哲学を語ること
山田 藤野さんは新書の『投資家が「お金」よりも大切にしていること』で、お金について真面目に考えることが必要だと書かれていますよね。日本人はお金について考えることを避けがちだけれど、お金を語ることは人生の哲学を語ることだ、と。
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確かにこの本を読むと、日本人はお金とちゃんと向き合えていないと感じます。この本で僕が「そうだったのか」と思ったのは、日本人が一時すごい勢いでブラジル株に投資していたのに、最近はみんないっせいに引き上げてしまっているという話。
日本人は外国企業が日本企業を買収すると「ハゲタカだ」と言いますが、藤野さんの「日本人のブラジルへの投資は、ブラジル人にとってなんの役にも立たなかったばかりか、ブラジルの通貨や経済を混乱させてしまった。日本人こそがハゲタカだ」という指摘にはなるほどと思いました。僕は株や投資信託、外貨MMFなどで運用をしていて、ちょっと前までブラジル関連の投信の宣伝をよく目にしていたのですが、確かに最近あまり見かけないんですよね。
藤野 ブラジルの話は一例で、日本人は世界で最も投資の回転率が高いと言われているんです。投資信託についていえば、海外では10年、20年単位で保有するのが一般的ですが、日本人の投信の平均保有期間はたった2.3年にすぎません。とにかくソンするのが嫌で、少しでも危険なにおいがすればすぐに売ってしまうので、一つの投信を買っても1年以内に乗り換える人が多いんです。
山田 もともと投信って長期で資産形成するためのツールですよね。長期保有している人が少ないというのは、なぜなんでしょうか。
資産形成のためのはずの投資信託は
「義理人情」で販売されている
藤野 それは、日本では投信が義理人情で売られているからでしょう。たとえば、定年退職して銀行口座にぽんと数千万円の退職金が入ると、取引銀行の支店長と入社1〜2年目の若手が一緒に訪ねてくるんです。菓子折りを持って「おつかれさまでした、今後はゆっくりセカンドライフをお過ごしください」なんて言われると、それだけで舞い上がってしまう。その後、担当になった若手行員が何をするかというと、お客さんの家に行って昔の武勇伝を聞き出すんですよ。
山田 じっくり話を聞いてあげるわけですね。
藤野 そうするようにマニュアルに書いてあるんです。2〜3回も訪問されればすっかり心を許すようになって、“自分から”「君は退職金運用の提案のために来ているんだよね、そろそろ考えないといけないよなぁ」と言い出します。
そこですかさず若手行員が投信を勧めると、「あなたを信用して買いましょう」となる。半年、1年経ったら、今度は「お客様のポートフォリオを見直しましょう」と言って投信を入れ替えさせる。そうやって投信を回転させて、販売手数料を何回も得るんですよ。
山田 販売手数料が3%とすると、退職金3000万円を投信購入に充ててもらえば、銀行は一度に90万円の手数料収入が入る。それなら、話を聞きに行くくらい、いくらでもやるでしょうね。結局、日本人の投信の保有期間が短いのは、金融機関が回転売買を勧めるからということなんでしょうか?
藤野 金融機関側の問題は大きいですね。投信販売が、お客さんの資産形成のためではなく、一定期間で利益を上げるための手段になってしまっているわけですから。しかし私は、買う側にリテラシーがないのも問題だと思っています。定年退職まで勤め上げてきた人は、ある意味でこれまで“レールに乗っていることが正解”という人生を送ってきて、お金について考える時間がなく、考える必要性も感じなかったでしょう。それこそ、お金に向き合うことがなかったのだと思うんです。日本人には、「お金について無垢であるほうがよく、お金のことを考えるのは汚い」という思想がありますから。
山田 みんな、「Mr.Children」や「innocent world」といった“少年”や“無垢”が大好きですよね。
藤野 日本人は誰もが「清貧の思想」に共感を覚えますよね。でも本来、「清貧」でいう貧しさとは、「理念に生きるためにあえて豊かな生活を拒否する」という考え方だったんです。ところが、これが曲解されて「豊かになるためには理念を捨てて汚れなければいけない」という考え方に変わってしまったんです。ここから「豊かになることは汚れることだ」「お金持ちは何か悪いことをしたからお金を稼げたんだ」「お金=悪」といった価値観が生まれているんでしょう。でも、貧しいことは正義でも何でもない。目指すべきは「豊かで清らか」になることなんです。