「現金でもっていれば安心」の
時代は終わった
もうひとつ、ちょっと心配なことがあって、鴨下さまは資産のほぼ100%を現金で持ってらっしゃいますね。不安なお気持ちにさせたいわけではないのですが、資金を貯金で持っていることのリスクということも考えていただきたいのです。
(妻)え、「現金」が一番安全だと思ってましたけど? 株とか外貨預金とかは下がったら怖いじゃないですか。
もちろんそうなんですが、今の時代は「インフレ」というリスクがあるんです。最近、物の値段がどんどん上がっていっていますよね。今まで100円で買えたものが130円、150円と値上がりしています。するとたとえば1000万円を現金で持っていても、実質的には700万、800万円分の物しか買えない、つまり700万、800万円分の価値しかないということが起こり得るわけです。これがインフレの怖さなんです。しかも時代は低金利です。1000万円を銀行に預けても、インフレ分に見合うだけの利息がつくわけではありません。
(夫)年金だって「インフレだから、ガッチリ上げて、多く出しておきましょう!」とはならないですよね……。
もちろん年金も本来はインフレに連動して上がるべきなのですが、年金の仕組み上、インフレへの対応力がかなり弱いんです。インフレだからといってポンと上がるというのは考えづらいです。そうでなくても年金財政は非常に厳しい状況にあります。だから、年金については今の見通し以上に上がることは期待しないほうがいいと思います。
(妻)となると、「現金で持っていれば安心!」ってわけじゃないんですね……。
「現金が安心」という気持ちはもちろんわかるのですが、それだけに頼ってしまうと、物の値段が上がったときに目減りしてしまうリスクがあるということを、ぜひ頭にいれていただきたいのです。
(夫)今まで資産について、あまり考えたことなくて。「コツコツ貯めればいいんだろう」としか思っていませんでした。
実は鴨下さまのところだけではなく、そういう方は多いんです。今、日本の金融資産は「貯金」が5割で、しかもその6割以上は60歳以上の方の貯金額という統計があります。株式や投資信託にはわずか10%しかまわっていません。これがアメリカだと逆転していて、貯金として持っている割合は10%あるかないかなんです。もちろんそれが無条件にいいというわけではないですよ。
しかし、ただ貯金として持っているだけで、あとは年金でやっていこうという考え方は、この時代には少々危険と言わざるを得ないんですね。確かにインフレは急に2倍、3倍と進行するわけではなくて、今日100円だったものが3カ月後は110円、半年後は120円というように、少しずつ進行するものです。「今日から急に生活できなくなる!」というわけではないけれど、ボディブローのように少しずつダメージが効いてくる……というイメージで考えていただきたいのです。