「22年より前に検査した患者は
1~3種類しか調べられていない」

「22年より前の患者は、1~3種類の遺伝子しか調べられていない。存命であれば、もっと多くの遺伝子を調べることができる。それを決断するのは患者。今回の調査結果を知ることで、知らなかった患者のより良い決断につながってほしい」と長谷川氏はセミナーで呼び掛けた。

 もっとも、今の診療報酬制度では、シングルプレックスを含めて一度検査をした患者が、公的健康保険で再びマルチプレックスによるドライバー遺伝子の検査を行うことはできない。公的保険で再検査するには制度の見直しが必要だ。

 現状、公的保険で再検査するルートとしては、標準療法が終了した患者などを対象に次の治療を探索する「がん遺伝子パネル検査」がある。これは患者のがん組織や血液からDNAなどを取り出し、次世代シークエンサーを用いて、複数の遺伝子異常を一度に解析するもの。24年2月1日現在260病院で検査ができる。検査結果は各拠点病院の「エキスパートパネル」において、医学的に解釈され、また検出された遺伝子異常に有効な薬剤や参加可能な臨床試験があるか検討される。ただ、肺がんは最初にマルチプレックスの検査が実施可能なことから、標準治療終了後のがん遺伝子パネル検査が実施される数がまだまだ少ない。

 遺伝子変異を標的にした分子標的薬による治療は最先端のがん医療である。最先端であるが故に、その進化と発展の速度は速い。公的保険制度はこれを阻むのではなく、連携しやすいかたちでの進化を要する。さもなくば、がん遺伝子検査のケースに限らず、医療現場の実態と公的保険制度の間で乖離が進んでいくことになるだろう。

Key Visual by Noriyo Shinoda, Kanako Onda, Graphic by Kaoru Kurata