後悔しない 医療・介護#6Photo:PIXTA

2022年より前にがんの遺伝子検査を受けた患者が再検査をしたら、使える分子標的薬が見つかるかもしれない。以前に比べてより多くの遺伝子を調べる検査が浸透してきているのだ。しかし、公的健康保険制度がこのチャンスを阻んでいる。特集『後悔しない 医療・介護』の#6では、医療の進化に追い付けない制度の実態を明らかにする。(国際医療経済学者、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン〈GHC〉会長 アキよしかわ、GHC代表取締役社長 渡辺さち子)

がん遺伝子変異の全ては
検査できていない可能性

 分子標的薬は、がんの原因となる遺伝子変異(ドライバー遺伝子)を標的にして効率よくがん細胞を攻撃する薬で、がん治療の新たな柱となっている。従来の抗がん剤が、がん細胞と正常細胞のいずれも攻撃するのに対し、分子標的薬はドライバー遺伝子タンパクを選択的に攻撃する。そのため、比較的治療効果が高く、人体への負荷も少ない傾向にある。

 遺伝子変異の有無を事前に検査して分子標的薬を使う治療法が最も進んでいる非小細胞肺がん(肺がんは小細胞肺がんと非小細胞肺がんに大別され、患者の約8割は非小細胞肺がん)では、9個の標的分子に対する18の分子標的薬が公的健康保険に適用されている。

 分子標的薬を使用できるか否かの鍵を握るのが「コンパニオン遺伝子診断検査」。どの薬を使用できるのか、患者ごとのドライバー遺伝子を特定する検査である

 分子標的薬と同様に、コンパニオン診断検査は技術進化と普及の途上段階にある。故に、過去検査を受けて有効な分子標的薬を導き出せなかったとしても、今ならできる可能性が実はある。

 医療コンサルティング会社であるグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)と肺がんの支援団体である一般社団法人アライアンス・フォー・ラング・キャンサー(A4LC)が共同で実施した「非小細胞肺癌患者におけるドライバー遺伝子検査実態調査」の結果はまさに、「数年前に診断された患者は、分子標的薬が存在する8種類(調査当時)のドライバー遺伝子全てについて遺伝子変異の有無を検査していない可能性がある」ことを示唆している。

 GHCとA4LCは昨秋にセミナーを開催し、自身も肺がん患者であるA4LC代表の長谷川一男氏は、「2022年より前にがんの遺伝子検査を受け、分子標的薬が使えなかった患者は再検査を視野に入れた方がよい」と呼び掛けた。