企業に経済学を供給する
プラットフォーム

――大学新卒から企業内で徐々に昇格して経営層に就く日本企業だと、経済学の学識を持つ人材を使う意義がわからなかったり、使える能力がなかったりという面はあるのでしょうね。

 日本の40-50代のビジネスパーソンが学生時代に学んだ経済学は、理論のための学問という面が強いでしょう。前述したサイエンスとしての経済学ですね。したがって、現在の日本企業の経営層では、そうした学識をビジネスで活用しようとか、経済学修士や博士のように専門性を高めた人材を採用して活かそうという発想にはならなかったのかもしれません。

 ただ最近、データ活用の重要性への認識は、経営層や一般ビジネスパーソンにも浸透してきています。それにともなって、データサイエンティストという言葉に象徴されるデータ分析・活用の人材の価値は日本経済全体で高まってきています。データサイエンス学部や関連する大学院が新設され、その卒業生を積極採用する流れになってきていますね。その延長線において、日本の先進企業でも、グーグルのように経済学者や経済学の学知をビジネスに活用して、事業や製品の付加価値を高めていくとことになっていくのではないでしょうか。

――そうした流れを加速する上で、御社が触媒のような存在になるかもしれません。

 経済学の専門知をビジネス界に供給するため、企業と研究者をマッチングさせるプラットフォームとしての機能は確実にあると思っています。その結果、ビジネスとアカデミアの人材交流が頻繁になり、先端学知を学んだ経済学修士・博士といった人材がその学知に見合った待遇で企業に採用され、先端学知が企業成長に貢献し、さらにその状況を見た学生たちがもっと研究してから社会に出たいと考える、そういう世の中になったらいいなと考えます。

 当社は、ここまでお話ししてきたように、経済学をビジネスに実装するコンサルティング事業と共に、もう一つ、経済学を中心にビジネスに活用できる専門知の教育事業も展開しています。先端の経済学や、エンジニアリングとしての経済学を、各専門分野の研究者から学ぶ動画授業です。各コンテンツは、サブスクと講義テーマごとの個別学習として有償提供しています。実際に経済学をビジネスに活用するための素地作りとして、ビジネスパーソンに学んで頂きたいと思っています。

 当社のウェブサイトを見て頂くとわかりますが、「データサイエンスの経済学」、「経済学とデータで解き明かす、ジェンダーギャップ」、「フューチャー・デザインと経済学:持続可能性と将来可能性」、「サステナビリティ、ESG開示のコスト&ベネフィット」、「行動プライシング入門」、「ビジネスに活かす行動経済学」など、ビジネスに直結する講座を提供しています。無料コンテンツもあるので、参考に視聴してもらえれば、今回の2冊の本で伝えたかったことが、さらに具体的にわかると思います。 (了)

今井誠(いまい・まこと)
エコノミクスデザイン共同創業者・代表取締役
1998年関西学院大学卒業。金融機関を経て、アイディーユー(現・日本アセットマーケティング)にて不動産オークションに黎明期から従事。東証マザーズへの上場に貢献。2000件以上の不動産オークションを経験。その後、不動産ファンドにて1000億円以上の不動産投資を実行。2009年不動産投資コンサルティング企業を創業し、代表取締役に就任。2018年不動産DX関連企業代表取締役や不動産オークション会社取締役等に就任し、不動産業界での経済学のビジネス実装に取り組む。2020年エコノミクスデザインを創業し、代表取締役に就任。