元祖YouTuber・マックスむらい氏が率いるAppBank「社員リストラ」の残念すぎる言い訳著名YouTuberのマックスむらい氏(出典:AppBankのニュースリリース

YouTuberとして黎明(れいめい)期から活躍するマックスむらい氏をご存じの方は多いだろう。ゲーム関連動画の配信を得意とし、チャンネル登録者数は140万人超に上る。だが、むらい氏が経営するゲームメディア会社「AppBank」は業績不振に陥っており、決算書には「疑義注記」が記されている。つい先月末にも社員のリストラを発表したのだが、その理由が「極めて異例」だった――。(森経営コンサルティング代表取締役 森 泰一郎)

深遠なるIR資料の世界
信じがたい「言い訳」が続々

 筆者は経営コンサルタントという職業柄、業績が悪化した企業の決算書や、早期退職者の募集(いわゆるリストラ)に踏み切った企業のIRリリースをよく目にする。

「新規事業がうまくいかなかった」
「買収した会社の業績が振るわず、減損損失を計上した」

 不振の要因として、各資料にはこうした説明が記されている。読者の皆さんも一度はご覧になったことがあるだろう。だが、一連の説明が本質を突いているかどうかは微妙なところだ。

 決算書やIRリリースには、上記の他にもいろいろな「不振の理由」が記されているが、中には首をかしげたくなるようなものもある。本連載では、そんな開示資料をピックアップし、その妥当性について経営コンサルの目線で検証している。

 たとえば、初回で取り上げた某社は鳴り物入りで株式を上場したものの、ほどなくして業績が悪化。「海外事業で中東案件が増加する中、ラマダン(断食月)の影響でビジネスの進捗が悪くなった」という趣旨の説明を開示資料に記載した。

 詳しい解説はこの記事に譲るが、「ラマダンがあることぐらい事前にわかりそうなものだ」などと、読者からも手厳しい意見があった。

 前置きが長くなったが、今回はそうした「首をかしげたくなるIRリリース」の例としてAppBankを取り上げる。

 AppBankは、140万人以上のチャンネル登録者を抱える著名YouTuber・マックスむらい氏が代表取締役社長CEOを務める企業だ。主な事業は、ゲームやスマホアプリに関するメディア運営などである。

 創業は2012年。マックスむらい氏と、学生時代の友人である宮下泰明氏が共同で立ち上げた。その後は2015年に東証マザーズ(当時)に上場するなど、短期間のうちに成長を果たしてきた。

 これだけを聞くと、華々しいイメージを持つ人がいるかもしれない。だが、近年は業績が振るわず、足元の2023年12月期第3四半期(23年1~9月期)の連結決算では、約2億円の営業赤字と約3億円の最終赤字を計上した。

 決算短信には「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在しております」との文字が並んでいる。経営危機に陥っていることを示す、いわゆる「疑義注記」だ。

元祖YouTuber・マックスむらい氏が率いるAppBank「社員リストラ」の残念すぎる言い訳AppBankの決算書に記された「疑義注記」 出典:AppBank
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 本稿執筆中の2月頭時点では、株価は100円前後、時価総額は11億円程度と寂しい数字である。そのような中、AppBank は2024年1月31日付の開示資料において、極めて異例の理由でリストラを行うことを発表した。