中小企業の未来を脅かす
「個人商店化」現象
ところで中小企業の営業活動は、想像以上に「個人商店化」しています。個人商店化とは、組織的な営業体制とは対照的な構造です。本来、組織は集団で個人の成果を上回ることを目指すものです。したがって個人商店化は、組織にとってしばしば好ましくない存在とされます。
しかし中小企業の現状では、社長が自ら営業を行い、一部のベテラン営業が各自の勘と経験に頼る独自の営業スタイルで活動をしていることがよく見られます。これが、中小企業における営業活動の実態と言えます。
お客さまのニーズや競合の動向、うまく売り抜くための営業成功パターンは、社長や一部のベテラン営業部員の頭の中にしか存在していません。これが、個人商店化が進む理由です。
経営上、重要で唯一の顧客接点である営業活動を、個人商店化した営業部員に任せることが本当によいのかという疑問が生じますが、ここでは人材育成の観点からこの問題を考察します。
個人商店化の問題は、新人営業部員にとって、仕事を覚えることや成果を出すことが困難である点です。大企業では、過去の経験から自社の営業の成功パターンが書面としてまとめられています。人手不足に悩む中小企業では、自社の成功パターンを整理することも、書面にまとめることにも手をつけられていません。
中小企業の人材育成は、ベテランの営業部員とともにお客さま対応をするOJT(On-the-Job-Training)が中心になります。このOJTを通じて、新入社員はベテラン営業が身につける独自の営業方法を学びます。
しかし属人化し、ベテラン営業部員が各自異なる営業スタイルを持つような組織では、新入社員がOJTを通じて営業を学び、さらに新たな独創的な営業手法が生まれ、ますます個人商店化が進むことになります。
結果として、営業組織は個人商店の集団になってしまいます。
OJTで、すべての新入社員が一人前の営業部員に育つわけではありません。ある部員は一人前として育っても、そうでない部員は成果が上がらず、社内で肩身が狭い思いをすることになるでしょう。
結局、個人商店化が進む営業組織でOJTを行うことは、営業部員の格差を拡大させる結果となります。
また、新たな個人商店として育った営業部員は、新規開拓から営業クロージング、アフターサービスまで一人で対応できる優秀な営業となり、市場価値が上がります。その結果、大企業から高い給与で引き抜かれることもあります。営業部員が育っても、育たなくても会社を去る結果となり、人員定着とは逆の方向に進んでしまうのです。
これが、中小企業における現在の営業組織の現状とシナリオです。