酢や塩漬けでは死なない

「急性胃アニサキス症」では、食後数時間後から十数時間後に、みぞおちの辺りに激しい痛み、悪心、嘔吐を生じます。アニサキスアレルギーでは、蕁麻疹(じんましん)が主症状ですが、血圧降下や呼吸不全、意識消失などのアナフィラキシー症状を示す場合もあるといいます。基本的に治療薬はなく、胃にアニサキスが確認されたら内視鏡を使って鉗子(かんし)で除去、それ以外では対症療法が中心となります。

 酢や塩漬け、醤油やわさびを付けても、アニサキスの幼虫は死滅しないため、サバをシメサバに調理してもアニサキス症の予防にはなりません。よく噛んで食べれば大丈夫と考える人もいますが、アニサキスアレルギーはタンパク質によって起こるので万全ではありません。

 効果がある方法は、70℃以上または60℃で1分以上の加熱か、マイナス20℃(家庭用冷凍庫は一般にマイナス18℃)で24時間以上の冷凍で、幼虫は死滅します。自分で釣る場合は魚から速やかに内臓を取り除いたり、幼虫を目で確認して除去したりすることも有効です。

太平洋側のサバがリスク大

 アニサキス症は古くからあった病気ですが、原因がアニサキス(線虫)の幼虫であると確定したのは1962年、オランダにおいてでした。日本での最初の症例報告は1964年です。

 寿司や刺身など、魚の生食を嗜好する日本では、諸外国に比べて多数のアニサキス症が発生しています。厚生労働省によると、2022年のアニサキスによる食中毒の報告は566件と過去最高を更新しており、食中毒の原因の約6割を占めています。近年、医療機関の認知度が高まったことも届け出件数が増えた理由の一つと考えられますが、これまでに全世界で確認されているアニサキス症の90%以上は、日本での症例です。

 アニサキス症への対応は、古くからの食文化の違いにも現れています。国内では、サバを生食する地域と生食を避ける地域に分かれています。福岡の郷土料理には、マサバの刺身を胡麻とタレであえた「胡麻サバ」があります。一方、関東では生食は避ける傾向があります。

 東京都健康安全研究センターの鈴木淳氏らは、日本海側と太平洋側ではサバに多く含まれるアニサキスが別種であることを突き止めました。さらに、日本海側に多いアニサキス・ペグレフィは内臓に留まりやすく、魚の死後に内臓から筋肉に移動した個体は約0.1%でしたが、太平洋側に多いアニサキス・シンプレックスでは約10%が筋肉に移動したという研究もあります。つまり、日本海側の福岡では、サバの刺身を食べても比較的リスクが少ないと言えそうです。