「セクシー田中さん」問題と
ダイハツ不正問題の共通点

 これはテレビ局だけでなく、製造業でも同じである。トヨタ自動車傘下のダイハツ工業の不正問題で、ダイハツが公表した「第三者委員会」による報告書には、不正の内容とともにその背景が書かれている。

 報告書には、「管理職は表向きは『何でも相談してくれ』というものの、実際に相談すると、『で?』と言われるだけで相談する意味が無く、問題点を報告しても『なんでそんな失敗したの』『どうするんだ』『間に合うのか』と詰問するだけで、親身になって建設的な意見を出してくれるわけではない」などとある(ダイハツ不正の第三者委員会「報告書」105ページ、2023年12月20日)。

 ダイハツ不正問題では、無理な開発計画を進めた社長は、現場の声を聞いていない。「なんでできないんだ」と言っていれば、下が適当にごまかしてくれ、ごまかす管理職が生き残る。もし、これらの管理職がいなければ、社長は自分で現場の声を聞くしかない。もちろん、組織がおかしいのだが、組織がおかしくなる原因は、社長と末端との間に人が多すぎて、最初に伝えた話がどんどん変わってしまう「伝言ゲームのわな」が生じるからである。

 話をテレビドラマに戻せば、原作を選ぶ決定権者(プロデューサーと言っておく)と原作者が直接対話すれば、プロデューサーは本当のことを言わざるを得ないと私は思う。だが、間に人が増えるほど、プロデューサーの責任感は低下する。

 プロデュ―サーが原作者に対し、原作通りにならないことを正直に説明すれば、原作者は、そんな薄っぺらな作品になるのは嫌だと言うかもしれない。しかし、誤解は防げる。ここにウソはない。

 もちろん、マンガの出版社は、テレビ化されれば販売部数が増えるから、テレビ化してほしいだろう。出版社も決定権者が1人であれば、ごまかしはやめて、「先生、確かに先生のオリジナル作品がテレビでは薄っぺらなものになってしまいます。しかし、テレビの視聴率は1%でも119万人が見ています(※)。その視聴者のうちに、先生の原作を新たに読んで、先生の深い世界に触れてくれる人が必ずいるはずです。どうか、テレビ化をOKしてください」と必死で説得することになると私は思う。

(※)「視聴率1%は何人?」 ビデオリサーチが解説 視聴率基本の『キ』
https://www.videor.co.jp/digestplus/tv/2023/08/80437.html

 あるいは、「人々は真実の姿を見ることにげんなりしているんです。平凡な夢を求めているんです。それにテレビは応えて、何百万人もの人が見ているんです。この人たちに、先生のメッセージをほんの少しでも届けたいんです」という説得もあるかもしれない。