東京電力ホールディングスの柏崎刈羽原子力発電所東京電力ホールディングスの柏崎刈羽原子力発電所  Photo:PIXTA

原子力発電所の立地が多い日本海側。今年元日の能登半島地震の影響で、原発再稼働への道筋に狂いが生じかねないのは、東京電力ホールディングスの柏崎刈羽原子力発電所である。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、北陸電力の志賀原発ではない理由や、柏崎刈羽原発再稼働へのハードルの3点、解決策の“意外な効用”を徹底解説する。(国際大学学長・大学院国際経営学研究科教授 橘川武郎)

能登半島の北陸電力・志賀原発は
「再稼働への道筋、大きな変更は生じない」

 今年元日に発生した能登半島地震で、北陸電力の原子力発電所が立地する石川県志賀町では震度7を記録した。志賀原子力発電所では、変圧器が破損したり油漏れが起きたりしたが、2011年の東京電力・福島第一原子力発電所事故の場合とは異なり、地震・津波による被害は部分的・限定的なものにとどまった。

 原子力発電に批判的な一部メディアは、能登半島地震で志賀原発の再稼働に大きな否定的影響が出るかのように報じているが、それは、事実ではない。

 そもそも志賀原発は、現在、稼働しているわけではなく、原子力規制委員会の審査を受けている状況下にある。被害が限定的だったことを踏まえて能登半島地震後も、原子力規制委員会の再稼働を許可するか否かの審査が粛々と進行中なのである。

 能登半島の断層調査の進展具合等により審査期間が多少延長されることはあっても、再稼働への道筋に大きな変更は生じないであろう。

 むしろ、能登半島地震の影響で、再稼働への道筋に狂いが生じかねないのは、東京電力ホールディングス(HD)・柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)の方である。この点については、原子力を批判するメディアもあまり報道していない。

 最新鋭の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)であり出力も大きい柏崎刈羽原発の6・7号機(発電出力はいずれも135万6000kW)については、原子力規制委員会が17年12月に新規制基準に適合しているとの決定を下し、20年10月には保安規定を認可した。しかし、その後、東電HDのテロ対策の不備が相次いで発覚したため、21年4月に原子力規制委員会は、柏崎刈羽原発6・7号機の再稼働への許可を凍結し、事実上の運転禁止命令を出すに至った。

 この運転禁止命令が解除されたのは、2年8カ月後の23年12月のことである。つまり、能登半島地震は、柏崎刈羽原発6・7号機が再稼働へ向けて大きく動き出した、まさにその矢先に発生したことになる。

 運転禁止命令が解除されたことを受けて、東電HDが柏崎刈羽原発6・7号機を再稼働させる上での残された課題は、地元了解を取り付けることに絞り込まれた。この地元了解を取るというハードルをかなり高いものにしたのが、ほかならぬ能登半島地震なのである。