近年、計算が複雑化した家庭向け電気代を巡り、エネルギー業界の一部から「ある施策」の業界各社一律に課す仕組みへの待望論が出ている。それはビッグモーター事件で信頼失墜した中古車業界で始まった動きに倣うものなのだが、どういうものなのか。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、この施策の内容や待望論が起こる背景を探る。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)
最大2250円安くて「最安値」の電力会社が
本当は最大1750円高くて「最高値」だった
電気代を基本料金と従量料金で比較すれば「最安値」なのに、トータル支払額で比較すれば「最高値」に!?――。
近年の燃料価格や卸電力市場価格の乱高下を経て、電力各社の家庭向け電気代の計算方法がかなり複雑になった。具体的には「燃料費調整等(燃調)」と呼ばれる燃料価格や卸電力市場価格に反応して上下する調整額を独自の基準で採用したり、料金プラン自体が独自の発展を遂げたりしたためで、客からすれば毎月のトータル支払額がいくらになるのか予見しにくくなった。
電気代比較のプラットフォームを提供するテック企業ENECHANGE(エネチェンジ)が大手電力および大手新電力計7社の24年2月分電気代を一般家庭モデル(30アンペア、260キロワット時)で試算したところ、基本料金と従量料金と再生可能エネルギー発電促進賦課金の合計では7社中で最安値の新電力が、燃料費調整等を考慮したトータル支払額(総額)では7社中で最高値となった。
前段の最安値の文脈では最高値の社より約2250円安く、後段の最高値の文脈では最安値の社より約1750円高かったのである。仮にこの社が前段の最安値だけをアピールして営業活動していれば、景品表示法で禁じられている優良誤認を発生させていると捉えられかねない事態だ。
このように、電気代の比較は複雑怪奇になっている。
そこで業界の一部から期待の声が上がるのは、ビッグモーター事件後に中古車業界で実施された「ある施策」の導入だ。