前回は、ビジネス戦略の立案やスポーツと同様、資産運用においても自分の特徴、つまり己の強みと弱みを知ることが大切だと書きました。これについて理解を深めていただくため、今後数回にわたり「行動ファイナンス」という比較的新しい学問の切り口からマーケットに接する際の人間の特性を見ていきます。特に、悪い投資成果につながる代表的な三つの一般認識…(1)人間は合理的な選択ができる、(2)選択は良いこと(選択肢は多いほど良い)、(3)自分は他人より優れた運用ができる…を一つずつ検証していきます。今回はまず、(1)の「人間は合理的な選択ができる」という一般認識について真偽を探ります。

人間は合理的な選択ができるのか?

 オヤジ世代の皆さんは、「今までの人生で自分自身のことはよくわかっているし、常識も身につけてきているから適切な選択ができる」と思っている人も多いでしょう。では、そんなオヤジの皆さんに問題です。今、目の前に二つのドアがあると想像してみてください。ドアAを開けると80%の確率で40万円をもらえる一方、ドアBを開けると100%の確率で30万円もらえます。この場合、皆さんだったら、どちらのドアを開けますか?

 おそらくドアBを開けた人が多いのではないでしょうか。ノーベル経済学賞を受賞したカーネマン教授らがアメリカ人を対象に行った実験では、ドアBを選んだ人の割合が80%にも上りました。でも、これは果たして合理的な選択なのでしょうか?「期待値」という概念、つまり何人もの人がドアを開けた際に得られる額の平均で見ると、期待値はドアAの32万円(40万円×80%)の利益に対し、ドアBは30万円(30万円×100%)の利益となります。この事実から、人間は利益については、より確実な選択肢を選ぶ傾向があることがわかります。現在の金利水準では雀の涙ほどの利息しかつかないのに、ついつい銀行にお金を預けたり、値上がりした株式をすぐに売って利益確保してしまうのは、まさにこのケースです。