遠藤 リクルートの話は気になります。以前、MI6が公に人材を募集していてびっくりしたことがあるのですが、日本の諜報を担う公安はどのように採用されたりするのですか?

勝丸 海外は才能のある人材を直接リクルートしています。MI6やCIAは公募もしていますが、協力者でもある大学教授を通じて、「今うちの大学にすごく優秀な学生がいる」という情報提供を受けています。青田買い方式で、ものすごい逸材を集結させているのです。それに比べて、日本の公安は全員が警察官として47都道府県の警察に採用された公務員です。選抜されたメンバーとはいえ、海外の諜報機関ほど突出した才能が集まりづらいのは否めません。

遠藤 学生でスパイ活動する人が本当にいるんですね。SNSが当たり前の昨今、「オレ今、こういう仕事してるぜ」みたいに情報が漏れないのか気になります(笑)。

勝丸 さすがに、そうした素養も見て採用しているかと思います(笑)。それにスパイの世界はけっこうアナログなので、そうした失敗は起こりづらいかもしれません。

遠藤 これだけテクノロジーが発展しても、まだまだヒューミント(※身分を偽って、敵勢力もしくはそれに近い人物から情報を聞き取る、または堂々と身分を明かして行うなど、人が直接対面で情報を得ること)は、残っているんですね。アナログ技術といえば、「尾行」というのはリアルの世界ではどんな風にやっているんですか?

スパイファミリーの1シーン
スパイファミリーの1シーン『SPY×FAMILY 3』より抜粋

勝丸 尾行と聞くと後を追うというイメージがありませんか?プロの尾行では、実は対象の前に何人か仲間を歩かせています。向こうは常に後ろを気にしていますから。後ろがついてこなくなれば、ほっとすると思うんですが、そのときに前にいる仲間がわざと対象に抜かれて、再度「尾行」するという形になります。こちらも人数に限りがあるので、いろんな工夫をして追いかけています。

遠藤 「この人、また見たな」みたいになりますもんね。

勝丸 そこは非常に気を使いますね。なので、たまに、別のチームから「レンタル移籍」という形で、追加することはありますね。先ほど身体的特徴を記憶するという話をしましたが、向こうも同じことしている可能性がありますから。

遠藤 尾行をしているとき、スパイの動き方に特徴はありますか?

勝丸 スパイは、「消毒」と「点検」は怠りません。例えば、夕方6時に情報提供者に会うとしたら、大使館を午後3時とか午後4時に出て、いろんなところを動き回ってから会いに行く。これが追っ手を巻く「消毒」、そして誰もついていないことを確認する「点検」になりますね。あくまで自然にやるというのがポイントで、どこかに立ち寄る時間が長すぎてしまうと、それはそれで怪しいと警戒心を与えてしまいます。

遠藤 「あいつ点検してるな」ってわかるものなんですか。