養老先生がよく歌っていた
軍歌はアニソンに似ている

茂木 養老先生は軍歌は歌っていたんですか。

養老 兄貴が予科練崩れだったので、家でしょっちゅう歌っていて、いろいろ覚えました。

東 軍歌は子供の頃の思い出という感じですか。

養老 新宿に「潜水艦」という飲み屋があって、ときどき軍歌を歌いに行っていました。そこは夜中の12時までは軍歌を流していて、12時過ぎると懐メロになる。大晦日には店主が客を引き連れて靖国神社に参拝に行くような変な店だった。

茂木 へえ。おいくつくらいの頃ですか。

養老 30歳前後でしょうか。

東 ということは、若気の至りではなく、確信犯的にお好きだったのですね。どんな歌を歌われたんですか。

養老 「嗚呼神風特別攻撃隊」とかね。兄貴に教わって歌っていると、おふくろが「なんで今頃そんな歌を歌うんだ」って怒っていたのを思い出します。おふくろは若い人が特攻で出ていくのを知っていましたからね。

茂木 学徒出陣はニュースとして記憶にありますか。

養老 ないです。

茂木 そうか、養老先生は軍歌を歌っていらしたのか。たしかに軍歌って名曲が多いですよね。あの頃の作曲家は、現代の日本人と身体性が違うように思う。戦後のイデオロギーで否定して片付ければいいものではないように思います。

養老 軍歌はどこに行っちゃったんだろうなと思っていましたが、TVアニメに受け継がれているんだと気付きました。

東 アニソンですね。アップテンポで歌謡曲的で、たしかに軍歌の継承者なのかもしれない。

書影『日本の歪み』(講談社現代新書)『日本の歪み』(講談社現代新書)
養老孟司・茂木健一郎・東 浩紀 著

茂木 なるほど。たしかに軍歌的な盛り上がりがある。軍歌って不思議なことに左の人もけっこう好きですよね。何かパトスをかきたてるところがある。

養老 メーデーの歌なんて、ほとんど「歩兵の本領」とメロディが同じですからね。

茂木 その軍歌バーは左の人も来ていたんですか。

養老 来てない。右ばっかり。

東 養老さんは右翼青年だったんですか。

養老 右翼ではないですね。でも僕らの世代は戦争の教育を受けて、戦争に行けなかった世代ですから、その影響はあるかもしれません。

東 憧れがあった。

養老 そうですね。実際に行った連中は懲り懲りしているでしょうが。