機能横断的なCXの提供を
実現できた理由とは

――新しい顧客体験の価値(CX)を汲み取って提供することは、従来の縦割り組織の中では難しいことも事実だと思います。さまざまな取り組みについて伺う中で、今のところ一番対応しやすい位置にいるのがデザイナーなのだと感じましたが、グループ内の意識としてはいかがでしょうか。

守屋 確かに、その通りです。縦割りの組織構造では連携が難しく、顧客体験の創出と最適化に課題がありました。

 しかしデザイナーは、顧客を起点とするアプローチによって、多様な視点を取り入れることができます。これによって作り手と使い手とのギャップを埋め、ひとつながりの顧客体験を構築することができれば、全体としての価値の最大化が実現するのです。各事業部との共創や伴走によるデザイナーの支援が増えているのも、このような効果がグループ内で認識されているからでしょう。

 体験価値づくりの「上流と下流」という言い方もありますが、デザイナーの強みは、消費者自身も自覚していない本音をインサイトとして発掘し、構想を描く戦略的な役割から、思考を可視化し具体化するところまでを、ワンストップで行えることです。デザイナーは、ヒューマン・センタード・デザイン(人間中心設計)の考え方でアイデアから具現化までを貫くことによって、一体感のある体験価値をつくり出すことができるのです。

 今回ご紹介した事例以外にも、BtoB領域の業務用無線機の開発においては、顧客理解を深めるために、メイン市場である北米の現場での使用状況を把握することが極めて重要です。特に、警察や消防といったクリティカルなシーンでの利用に関しては、エンドユーザー調査を徹底的に行い、その過酷な使用環境を実際に体感するために、時にはデザイナー自らが消防士と同じ装備を身に着け、訓練に参加することもありました。このように現場に深く入り込むアプローチを取り入れることで、製品の設計にとどまらず、その使用体験全体をデザインし、より価値のある顧客体験の創出を目指しています。

 こうした取り組みによって、私たちが担うデザインの領域は、単なる製品の外観設計にとどまらず、顧客を起点とした事業プロセス全体へと拡大しています。デザインと事業の関係がより深く結びつき、それに伴いデザイナーへの期待と役割も拡大していると言えるでしょう。これからも、デザインの力で持続可能な事業成長に貢献できるよう、私たちは独自の取り組みを強化していきたいと考えています。

浦 航介 JVCケンウッド・デザイン インターフェースデザインスタジオ プロジェクトリーダー。主に無線通信機器のプロダクトデザインを担当した後、2005年より欧州赴任を経て、カーナビなど車載機器のUIデザインや国内外の自動車メーカーに向けてHMI、UXデザインの研究やコンセプト開発に携わる。23年よりプロダクトとUXデザインをつなぐ役割を推進。

 

豊口 馨 JVCケンウッド・デザイン プロダクツデザインスタジオ アシスタントプロジェクトリーダー。製品プロモーション用CGコンテンツを制作する傍ら、2015年より独自活動としてVR研究のプロジェクトを推進。現在は、VRのみならずメタバースまで領域を拡大して活動を進めている。今回の「ニッパーとあそぼう サウンドパーク」では企画と運営に携わる。

 

守屋克浩 JVCケンウッド・デザイン インターフェースデザインスタジオ スタジオ長。ホームオーディオ、カーナビ・カーオーディオなどの車載機器、無線通信機器などを中心に多くのプロダクトデザインを担当し、2018年よりマネジメントに携わる。21年よりブランドエクスペリエンススタジオ長として、ハードウエアの開発、ならびにKENWOOD、JVC、Victorの三つのプロダクトブランドのマネジメントを担当し、24年4月より現職。

 

公益財団法人日本インダストリアルデザイン協会(JIDA) https://www.jida.or.jp/

プロフェッショナルなインダストリアルデザインに関する唯一の全国組織。「調査・研究」「セミナー」「体験活動」「資格付与」「ミュージアム」「交流」という6つの事業を通して、プロフェッショナルな能力の向上とインダストリアルデザインの深化充実に貢献する。