「光」で体内時計と老化を
コントロールする

「時間秩序が破壊されたことで、マウスの細胞と個体機能の恒常性が破綻したわけです。細胞内の時間秩序が崩れると、人間でも認知機能の低下、慢性腎臓病、睡眠障害やうつ、心筋梗塞や糖尿病など、いわゆる生活習慣病と呼ばれる病態の分子メカニズムのスイッチがオンの状態になると考えられます」

 体内時計に影響を与えるのは、光・食事・運動という3つの因子だ。そして、そのなかで最も大きな影響を与えるのが、柳沢機構長も指摘していた「光」である。

「体内時計は朝の光によってリセットされる一方、夜の光によって後ろにずらされます。よって光を調節して体内時計を整えることは、老化をコントロールすることにつながります。とくに午前中の明るい光は乱れかけた体内時計を整えてくれます。

 他方で、夜遅くのコンビニは非常に明るくて、そこで立ち読みなんかして10分から20分いるだけで体内時計は後ろに傾いてしまう。私は早朝にテレビに出た時は明け方のコンビニに行って光を浴びることで、調整したりしました」

 体内時計の調節は、浴びる光の照度×時間で決まってくる。照度の目安としては夏の晴天時は10万ルクス、曇天は1万ルクス、パチンコ店やコンビニでは1000ルクスだ。通常の屋内の光としては、精密作業は300ルクス、通常作業は150ルクス以上と労働安全衛生規則で決まっている。コンビニの照明がどれほど明るいかがわかる。ちなみに、5000ルクス以上の高照度光は季節性うつ病の治療にも使用されている。

 では、一度ずれてしまった体内時計は、どのような生活習慣によって整えることができるのだろうか。八木田副学長は続ける。

「やはり最も重要なのは、光です。日中に光をしっかり浴びて夜間のメラトニンの分泌を増やすこと。曇りの日でも照度は十分に足りています。次に、昼間の運動ですね。光の影響に比べると効果は弱いですが、軽く汗ばむくらいの運動を10分から1時間程度行うと体内時計を整える効果があります。

書影『老化は治療できるか』(文春新書)『老化は治療できるか』(文春新書)
河合香織 著

 これは交感神経の活性化による影響だと考えられています。夜遅くの運動は眠気を遠ざけるので、代謝効率が良い夕方の運動が効果的でしょう」

 そしてもう一つ、体内時計を整えるために大切なのが朝食だ。深夜の食事は血糖値の上昇や脂肪の蓄積を促すので避け、朝食にタンパク質の多いメニューを採るのが良い。

「つまり、体内時計を良好に保つために重要なのは『タイミング』です。午前中の光は体内時計を整えますが、夜の明るい光は体内時計を遅らせる。運動もただすればいいというわけではなく、『いつそれを行うか』が大事なのです」