体内時計が狂うと
「免疫力」が低下する

「この体内時計を刻む上で重要な役割を果たしているのが、『時計遺伝子』と呼ばれる遺伝子です。時計遺伝子の発現によって中枢時計は機能しており、生体のリズムを作り出しているわけです」

 時計遺伝子はショウジョウバエで最初に発見された。哺乳類にこの「時計遺伝子」があることが発見されたのは1997年。そのメカニズムを解明した3人の研究者は2017年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。

 時計遺伝子の発見当初は、体内時計は視交叉上核にしか存在しないと考えられていた。だが、八木田副学長を含むグループの一連の研究によって全身の細胞一つひとつに視交叉上核と同じ仕組みでリズムを刻む「体内時計」が存在することが分かった。

 中枢時計が体内時計に指示を出して、個々の細胞はそれに呼応してそれぞれがリズムを刻んでいる。体内時計がうまく調整されていると全身の体内時計のリズムはきれいに同期しているが、体内時計が狂うとそのリズムはバラバラに時を刻んでしまう。

自分の体内時計に従わない生活を続けていると、リンパ球などの免疫細胞の老化が進みます。すると、免疫機能に異常をきたし、慢性炎症が全身の臓器組織に生じ、さまざまな疾患リスクが生じます。生活習慣病とも大きく関連しているため、体内時計を整えることは老化を防ぐために非常に重要な要素だといえるでしょう」

 交代勤務をするシフトワーカーは、脳卒中、心筋梗塞などの冠動脈疾患、前立腺がん、乳がんなどの発症リスクが高いとする報告もある。WHOのIARC(国際がん研究機関)はシフトワークを発がん性の高い危険因子として、深夜勤務を含むシフトワークの危険リスクを上から2番目の「グループ2A」に分類した。

 だが、本当に体内時計の狂いのせいだけで病気になったと言えるのか。それを調べるため、八木田副学長は性別や週齢、食事、遺伝的背景まで同じにしたマウスの光環境を錯乱させて、約2年にわたって調査した。

 1つ目は規則正しい生活リズム、2つ目は適応可能なゆるいシフト、3つ目は適応不能なきついシフト──これらに分けて、マウスの経過を観察した。

 結果的に、通常のマウスや適応可能なゆるいシフトを組んだマウスは2年後に1割しか死ななかったが、適応不能なきついシフトを組んだマウスは4割が死亡し、明らかな寿命の差が見られた。