定年は、僕にとっての病気告知と同様、自分の人生を立ち止まって見つめ、どちらに舵を切るか考える絶好の機会だ。その時、「今までの仕事や生き方をなるべく変えたくない」とか「生活しないといけないから、仕方なく働き続ける」ではなく、「いかに自分が毎日をハッピーに過ごせるようにするか」「いかに人生をエンジョイできるようにするか」という視点も持ち、残りの人生、悔いなく過ごしてほしい。

変化を恐れず、
おもしろがる力を高める

 病気が判明して1年、治療を続けるなかで僕は、さまざまな気づきを得た。ひとつは、バラエティ番組に出演するなかで学んだ「変化を恐れず、どんなこともおもしろがる」姿勢は実生活でもすごく大事だということ。

 治療を始めた2023年3月時点で、夏には抗がん剤投与が決まっていて、その副作用で髪が抜けることを説明されていた。そうなった際、多くの患者は、「帽子を被る」か「ウィッグ(かつら)で以前の見た目をキープする」という対処法をとるらしい。

 帽子はともかく、ウィッグはそれ相応の費用がかかる。それでも、ウィッグを選び、自分のこれまでの見た目を維持しようとするのはなぜだろう。女性ならまだしも、男性にもその選択をする人が多いというのには驚いた(ジェンダーフリーの今、これは問題発言かもしれないが)。長年キープしてきた“見た目”と変わることは、受け入れ難いのだろうか。周囲の自分に対するイメージが崩れるのがイヤなのだろうか。

 僕はこれまでずっと、顔が長くて見苦しいのだから、せめて髪くらいはこざっぱりさせようと、白髪頭を真っ黒に染め、月に1度は美容院でカットしてもらっていた。

 それなのに、突然頭がツルツルになってしまったら、見る人の違和感が大きいに違いない。そう考え、担当の美容師さんに相談したところ、「黒髪→白髪→短髪→スキンヘッド」と髪型を徐々に変化させようと提案され、まずは3月末に髪を染めるのをやめて白髪頭にし、長さもかなり短くした。

 当時はまだ病気を公表していなかったので、周囲の人たちやテレビの視聴者にどう思われるか心配していたのだが、拍子抜けするくらいに反応がなかった(笑)。

 数人から、「その方がダンディーでいい」などと社交辞令のおほめの言葉をいただいたものの、大半の人は僕の髪型になんて関心がなかったのだ。いわば、髪型を気にしていた僕は、自意識過剰だったというわけだ。