見た目の変化は
恐れるに足らない

 7月末に入院して間もなく、抗がん剤治療の直前に、病院内の理容室で髪を長さ3ミリ、いわゆる丸刈りにしてもらった。子供の頃を含めてこんなに短くしたのは、これが初めて。僕自身は違和感しかなかったけれど、看護師さんからの評判も悪くなかったし、オンライン取材で僕の頭を見たなじみの編集者からは、「前より若々しくなった気がします」と言ってもらえた。やっぱり、長年続けてきたヘアスタイルが自分に最も似合っているというのは、僕の勝手な思い込みに過ぎなかったようだ。

 抗がん剤治療を開始した1週間後、髪がごっそりと抜け出したのには、さすがの僕も落ち込んだ。とはいえ、しばらくすると、これはこれでおもしろいと思えるようになった。この長い顔から髪がなくなって周りがどんな反応をするのか、実験してやろうという気持ちが芽生えてきたのだ。

 早速、入院中のリモート会議や退院後の対面の仕事で、以前から知っている人に対しては、スキンヘッドで臨んでみた。すると、もちろん気遣いもあるとは思うが、「意外と似合う」「頭の形が良い」などと、おおむね好評だった。

 ただし、テレビ出演や講演会の際は、病気であることが強調され過ぎないようにと考え、帽子を被ることにした。これも、「長い顔で帽子を被るとどう見えるか」という、僕なりの実験だったが、さまざまな帽子にトライした結果、とあるブランドのトレードマークのウサギのキャップに落ち着いた。

 僕は、テレビ番組で政治や政策の批判をすることが多い。ウサギのキャップという少々ふざけたものを選んだのは、「こんなウサギに批判されて悔しいだろ」と、政治家を煽る気持ちもあったからなのだが、同時に、帽子で自分の印象を変えることをエンジョイできた。

 こうした経験から学んだのは、「他人は、自分が思っているほど自分のことになど関心がない」ということ。周囲の反応を見るに、スキンヘッドも帽子姿も、5分も目にすれば、慣れてしまうらしい。

 そもそも60歳過ぎたオッサンの髪型など、誰も興味がなくて当然だろう。“見た目の変化”は、恐れるに足らないことなのだ。

 抗がん剤治療から4カ月ほどで髪の毛はだいぶ伸びたので、2024年1月に帽子をやめた。でも今後はもう、以前のヘアスタイルに戻さない。短めの白髪頭をベースにし、気が向いたらスキンヘッドにするかもしれない。理由は簡単。その方が、洗髪が楽だし、気分転換になりそうだから。

 髪が抜け、以前とは違う見た目になった自分を楽しんでみる。そうすると、こんな風に新たな発見があるかもしれない。