ドキドキ感を武器にできる新人トレーナー
 私は2010年の夏頃から、アルバイトを始めて2ヵ月のスタッフを、新人のトレーナーにしていました。
 これは、アルバイトの定着率を高めるための工夫の1つです。
 ベテランスタッフに比べると、知識や技術は当然未熟ですから、一部の社員は「本当にまかせて大丈夫ですか?」と不安がっていました。
 でも、人に教えるには、仕事内容を十分にわかっていなくてはいけません。
「しっかりしなくてはいけない」という意識も芽生えます。
 実は教えることは、本人にとっていちばんの勉強になります。
 それに入って1、2ヵ月くらいのアルバイトは、職場に染まっていなので素直です。
「自分はここでちゃんとやっていけるだろうか」という、初めて売り場に立った日のドキドキ感を忘れていないのです。
 だから新人にやさしく教えられます。
 キツイ言葉を言ったり、嫌みを言ったりはしません。
 実は、ここが仕事に慣れたスタッフといちばん違うところです。
 仕事に慣れたスタッフのなかには、自分が働き始めた頃の不安を忘れてしまう人がいます。
 自分も仕事ができなかったことを棚にあげて、「こんなことも知らないの」とか「そんなこともできないの」と、平気で言ってしまうのです。
 本人に悪気がなくても、言われた新人の心は傷つきます。
 そんなことを言われて楽しく仕事ができるわけがありません。
新人と先輩がお互いを磨きあげる仕組み
 そこで思いついたのが、入って1、2ヵ月のスタッフにトレーナーをやってもらうというアイデアです。
 ただ、性格は人それぞれですから、トレーナーに向かない人もいます。
 性格はよくても、最初から仕事ができすぎて、新人の困っていることがわからなかったり、悪気はなくても言葉がきつい人はトレーナーに向いていません。
 入って1~2ヵ月経った人からトレーナーに向いていそうな人を3人選び、それぞれに新人を2人ずつつけます。
 1回のアルバイト募集で採用するのがだいたい4~5人なので、トレーナー候補は3人いれば十分です。
 この試みは見事に成功し、アルバイトの定着率は格段に上がりました。
 採用時には、募集広告を出したり、面接したり、オリエンテーションしたり、時間とコストをかけるわけですから、一度雇ったパート・アルバイトが定着してくれるのは非常にありがたいことです。
 さらに、教える先輩が急成長してくれます。
「この子はアルバイトを続けられるのかしら」と思うようなおとなしい子が、トレーナーの経験をしたことで、急に成長してくれたこともありました。
 まさに、トレーナーが新人に「逆研修」されるわけです。
 新人と先輩がお互いに磨き合って成長していきます。
 売店でテキパキと働く彼女たちを見ると、我ながらいいアイデアだったなと自画自賛しているところです。



