前回の本コラムでは、「夫に養われる」という生き方を選ぶ女性が再び増えている背景に、社会保険の「被扶養者」という制度があることを指摘した。
現行の社会保険制度では、会社員や公務員の夫の収入で生活している妻は、本人の年収が130万円未満までは保険料の負担なしで健康保険や国民年金に加入できることになっている。これを超えると妻本人が保険料を負担することになり、年収130万円未満の人より手取りが減るという逆転現象が起こる。
また、1日の勤務時間と1ヵ月の勤務日数がともに、正社員の4分の3以上になると、年収130万円未満でも社会保険に加入することになる。そのため、労働時間を調整しているパート主婦も多い。
では、なぜ被扶養者の認定基準は130万円未満なのだろうか。
「国が決めたから」と言われれば、それまでだが、このように明確な数字で区切るからには何か根拠があるはずだ。そこで、今回は、健康保険の歴史をさかのぼって、被扶養者の認定基準の疑問を解いてみたい。
70年代までの収入基準は
健保組合が独自に決めていた
日本の公的な医療保険は、会社員は健康保険、公務員は共済組合、自営業は国民健康保険というように、職業に応じて異なる制度に加入する。
この中で、会社員と公務員の制度には、その妻や子ども、親などが保険料の負担なしで医療給付を受けられる「被扶養者」というものがある。
自営業の国民健康保険には「被扶養者」という概念はなく、世帯主だけではなくすべての家族が保険料負担の対象になるので、被扶養者は会社員や公務員の家族の特権ともいえる。