新たな人材流動化により
終身雇用時代は終焉へ

 先進企業にとって、こうした変化は人事制度全体を見直すきっかけになる。人手不足という危機感に訴えれば、21世紀に向けた人事制度の根本的な改革に対する社内の抵抗を克服できる。それによって人材が集まり、労働生産性を高められるのだ。

 意欲的な従業員にとって進行中の変化は力になる。もはや手堅くサラリーマンになることだけが社会的に一目置かれるキャリアパスではなくなった。トップ人材の報酬の増加、実力主義に向けた社内改革、より興味深いキャリアパス、起業家精神の高まり、個人の関心事を追求する機会の広がりなど、人手不足はすでに多くの変化をもたらしてきた。

書影『シン・日本の経営 悲観バイアスを排す』『シン・日本の経営 悲観バイアスを排す』(日経BP 日本経済新聞出版)
ウリケ・シェーデ 著、渡部典子 訳

 おそらく最も重要なのが、この新たな人材流動化により、優良企業と優秀な人材とのマッチングがはるかに容易になることだろう。以前は、優秀な人材でも終身雇用状態から抜け出せないことが多かったが、労働市場の流動性が高まれば、先頭ランナー企業はあらゆるキャリアステージで優秀な人材を確保できるようになる。

 転職がこの先も増えていけば、最終的に終身雇用制度全体が成り立たなくなる可能性が高い。賢い労働者が思うままに転職できる労働市場では、企業はその他の従業員のすべてに終身雇用を約束することはできない。収益性への圧力もあって、終身雇用制度が高くつくようになっているのだ。社会の不安定化につながる懸念から、労働改革は慎重なペースで進んでいるが、これも活発なイノベーション・エコシステムへの新たな道筋を構築する好機になるかもしれない。