高齢化や人口減少を背景に、日本の生産年齢人口は2050年には5000万人を切ることが予測されている。こうした中、企業間での「人材争奪戦」はすでに始まっている。経営学者のウリケ・シェーデ氏によれば、このことは企業の刷新や改革を行い、優秀な人材を集める絶好のチャンスになるという。※本稿は、ウリケ・シェーデ著、渡部典子訳『シン・日本の経営 悲観バイアスを排す』(日経BP 日本経済新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
取引先との「つきあい」を優先した
昭和型企業の大きな誤算
戦後の高度成長期に、ほとんどの大企業はメインバンクに財務を任せて「系列グループ」に所属していた。系列他社や重要な取引パートナーと株式を持ち合い、安定性と相互支援が主な関心事となっていた。こうした企業はたいてい脇の甘い経営を行っており、危機に直面すると、メインバンクが介入して救済と再建を行った。
このシステムでは、利益よりも売り上げがはるかに重視された。企業は毎年、売り上げと売上成長率で順位がつけられ、大きいほど良いとされた。収益性や業務の効率性はあまり重視されなかった。このため、企業は長期にわたって「何とかやり過ごす」ことができた。言い換えると、打てば響くような対応がとれなかったのだ。
企業全体の連結業績を報告する義務はなく、一時的な損失はより小さな子会社に簡単に隠すことができる。また、市場価格に影響を与えられないプライステイカー(価格受容者)になることも多かった。というのも、取引でさらに粗利を稼ぐよりも、取引先との長いつきあいのほうが重要だとみなされていたので、厳しい交渉をしなかったからだ。こうした取引先は主要株主でもあったことから、経営陣に対して業績向上への規律を欠いたまま、システムは均衡していた。
コーポレート・ガバナンス改革が
新しい投資家を呼び込んでいる
今世紀に入って会計改革とコーポレート・ガバナンス改革が始まると、こうした状況が一変した。連結会計と政策保有株式(いわゆる持ち合い株)の開示が義務づけられ、法改正により、海外投資家が日本企業に投資する際に許可をとる必要性もなくなった。バブルが崩壊して1990年代後半に日本の株式市場が暴落すると、当時の日本株は比較的割安だったこともあり、海外投資家の第1波が押し寄せた。
コーポレート・ガバナンス改革は株主の地位と権利を大幅に向上させた。真に独立した社外取締役を設置せざるをえなくなっただけでなく、年次株主総会は株主が発言し介入する有意義な場になった。こうして新しい投資家が日本に集まるようになり、株主構成はがらりと変わった。