長年の研究を基に、「日本経済の『失われた30年』という通説は間違っている」と論じ、日本の未来に希望を見る、『シン・日本の経営』(副題は「悲観バイアスを排す」、日本経済新聞出版社、2024年)。その著者、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル政策・戦略大学院のウリケ・シェーデ教授にインタビューした。全5回の連載でお届けする。第4回目は、各国企業の特徴の背景にあるカルチャーについて語ってもらった。(聞き手・文/ダイヤモンド社 論説委員 大坪 亮)

「日本には希望がある」と断言できる理由ウリケ・シェーデ(Ulrike Schaede)
米カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル政策・戦略大学院教授。
日本を対象とした企業戦略、組織論、金融市場、企業再編、起業論などが研究領域。一橋大学経済研究所、日本銀行などで研究員・客員教授を歴任。9年以上の日本在住経験を持つ。著書にThe Business Reinvention of Japan(第37 回大平正芳記念賞受賞、日本語版:『再興 THE KAISHA』2022年、日本経済新聞出版)など。ドイツ出身。
Photo by Teppei Hori

タイトな日本とルーズな米国
カルチャーに基づく企業変革

――次の書籍は、どのようなテーマを考えていらっしゃるんですか。

 構想はいろいろありますが、次の本は、企業カルチャーがどのように変化するか、それをどうマネジメントできるか、をテーマとして考えています。

――カルチャーについて本書では、スタンフォード大学のチャールズ・オライリー教授の論文を基に、「社会的につくられた『行動様式』の体系」として、「内容」「合意」「強度」の3つの次元がある、という考え方をとっています。また、同大学のミシェル・ゲルファンド教授の「タイト・ルーズ理論」を基に、「内容」は目につく部分であり、カルチャーの比較には、「合意」や「強度」を掘り下げる必要があるとしています。人々が正しい行動と感じる度合いの強さの「合意」と、そこからの逸脱に寛容でない「強度」で、33カ国を調査し、同意度・束縛度の強いタイトの国から弱いルーズの国までを示しています。そして、主要先進国の中でタイトな日本を、他国と比較して、日本の変革について論じています

 日本のタイトなカルチャーを、「なぜ日本経済の再浮上に時間がかかったか」の理由として分析しました。この遅さは、「安全第一」を望む日本の選択であり、良し悪しは言えません。このことは、本書の肝で、私が最も言いたかったことの1つです。

 その上で、次に進めている研究では、企業変革の際に、企業カルチャーをどのように扱えばよいかを考えています。

 例えばJR、中でもJR東日本。国鉄時代からの鉄道事業では安全第一のカルチャーがある一方で、小売やホテルなどの事業ではクリエイティブなカルチャーを発揮していく必要があります。共に大切な事業ですが、この2つの異なるカルチャーをどのようにマネジメントしているか、ということを研究しています。

 企業変革において、人材の流動性は、1つのポイントです。国レベルで考えると、今、日本では転職が活発化していますね。この20年間で劇的に変わったと思います。終身雇用というタイトなカルチャーが変わってきています。

 小泉純一郎内閣から法的制度の変更が始まり、一世代近くの年月がかかりました。親の世代では、転職は失敗する可能性が高いと考えられて、なかなかできなかった。

 ましてや、大企業に勤める人が、起業するのは稀なことでした。