長年の研究を基に、「日本経済の『失われた30年』という通説は間違っている」と論じ、日本の未来に希望を見る、話題の書『シン・日本の経営』(副題は「悲観バイアスを排す」、日本経済新聞出版社、2024年)。その著者、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル政策・戦略大学院のウリケ・シェーデ教授にインタビューした。全5回の連載でお届けする。連載2回目は、日本のリーディング・カンパニーの技術戦略とニッチ戦略について語ってもらった。(聞き手・文/ダイヤモンド社 論説委員 大坪 亮)
米カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル政策・戦略大学院教授。
日本を対象とした企業戦略、組織論、金融市場、企業再編、起業論などが研究領域。一橋大学経済研究所、日本銀行などで研究員・客員教授を歴任。9 年以上の日本在住経験を持つ。著書にThe Business Reinvention of Japan(第37 回大平正芳記念賞受賞、日本語版:『再興 THE KAISHA』2022年、日本経済新聞出版)など。ドイツ出身。
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iPhoneの生産において
付加価値率が高い日本企業
――日本経済の再浮上の象徴的な姿が、本書で示す「ジャパン・インサイド」ですね。
図2は、「典型的なバリューチェーンと製造業におけるスマイルカーブ」の図です。バリューチェーンは、設計や小売りなど企業の諸活動でいかに付加価値をもたらしているかを示します。どの活動が儲かるかを考える上でのフレームワークです。
今日の製造業では、グローバルなバリューチェーンにおいて、上流部分の設計や素材、下流部分の小売りが儲かることが多いので、利益率を縦軸に置くと図2のようにスマイルカーブになります。
製品の組み立ては、日本もかつては巧みな生産技術で強みがありましたが、韓国、中国が経済成長するに伴い、それらの国へ移っていきました。バリューチェーンにおいて中流部の製品組み立てで収益を上げられないとなれば、川上や川下に移動しなければなりません。
例えば、アップルの初代iPhoneの場合、組み立て地は中国ですが、付加価値率は中国が3.6%であるのに対して、日本は34%です。部品や素材、生産機械など、作るのが難しく、利益率が高いところを日本企業が占めています。付加価値比率は日本が1位で、2位がドイツの17%、3位が韓国の13%です(2010年、アジア開発銀行研究所調べ)。その後のアップル製品での付加価値比率は似たような構造にあります。
これは、「ジャパン・インサイド」の典型例です。日本企業のリーディング・カンパニーの“先頭ランナー”は、バリューチェーンにおけるシフトに成功したのです。