投開票日が迫る東京都知事選挙。作家で元外交官の佐藤優氏は、「つばさの党」に注目しているという。つばさの党だけが持つ「怖さ」とは――。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/梶原麻衣子)
つばさの党“だけ”が持つ
N党や参政党にはない「怖さ」
東京都知事選挙では、過激な選挙ポスターや掲示場所を販売するというNHKから国民を守る党(以下、N党)の“選挙ビジネス”など、選挙制度をおとしめるかのような行為が目立っています。しかし一方で、真に目を向けなければならないのは先の東京15区の補欠選挙で他候補陣営にマイクを突き付け、大音量で演説を妨害するなどした「つばさの党」がどのような動きを見せるか、でしょう。
都知事選での50人を超える大量の立候補者の中には奇矯な振る舞いで注目を集めようという候補者もいます。彼らは「選挙を口実に注目を集め、YouTubeなどで稼ごうとしている」という意味で、一見、つばさの党の亜種のようにもみえます。しかしつばさの党は、彼らのようなYouTuberとも、すでに議員を輩出しているN党や参政党にはない「怖さ」を内包しているのです。
その「怖さ」を考える上で、比較対象にすべきは欧州議会選挙です。6月に行われた欧州議会選挙の結果に関しては各メディアで「極右が躍進」と報じられているように、フランスの右派政党である「国民連合」が議席を伸ばしたことを警戒する解説が多く見られました。
欧州で高まる既存政治への不信感
格差広がる日本ではどうか
何が極右で、何が極左なのかは軸をどこに置くかで変わりますが、いずれにしてもこの現象は「既存の政治・社会システムが国民のニーズを満たしていない」ことを示しています。
極右政党と呼ばれる勢力はいずれも、国民の生命・身体・財産の保護を一番に掲げており、これは原則に立ってみれば極めて健全な主張です。本来、その国の政治は国民のことを一番に考えてしかるべきで、むしろこうした意見が「危険視」されるのは、ナショナリズムを毛嫌いし、グローバリズムを善とする旧来型の思考にとらわれているからです。
やはり極右と評されるドイツの「ドイツのための選択肢(AfD)」も同様です。確かに排外主義的で過激な思想を持ち、暴力的な行為も辞さないスキンヘッズのようなメンバーや支持者もいますが、その実は農工業などの生産を重視し、額に汗して働く国民こそ報われるべきである、というのがこの人たちの思想の根底にあるのです。
移民排斥、と非難されはしますが、彼らは国民が嫌う仕事を移民にやらせるのではなく、国民同士で分担して担うべきだという考えも持っています。
こうした考えが「極右」と呼ばれ、何か異常で不健全なもののようにいわれているのは正しいのか。「人道的な考えから移民に賛成」といいながら、移民に危険できつい仕事ばかりさせている建前ばかりのリベラル政治が正しいのか。多くの人たちがこうした疑念を持ち、既存の政治に対する不信感を抱いているからこそ、極右と呼ばれる勢力が台頭してくるのです。
翻って日本はどうでしょうか。経済情勢を見れば、株価や不動産価格は上昇し、株の配当だけで生活ができる人たちが存在する一方で、多くの人たちの生活が豊かになっているとはいえない状況にあります。