ミニマル術とは、本来のあなたを取り戻すための「自分彫刻」

 ミニマル術とは、本来のあなたを取り戻すための「自分彫刻(※3)」と考えるとわかりやすい。不要な物事を徹底的に削り取った後に残るのが「あなた自身という彫刻作品」だ。

「あなたが(他の誰でもない)あなたであり続ける」という、最もミニマルな状態で生きることができて初めて、真に豊かな人生を手にすることができる。

 不安定な社会や経済に振り回されず、不確かな情報や他人の価値観ではなく「自分の意思」に従って生きる──システムに狂わされない人生──それが目指すべきミニマル・ライフである。

意識を自分の「内」に向け、一番大切な「すでにあるもの」に気付く

 そんな人生にシフトすべく、自分に「無いもの」ばかりに目を向けるのはやめよう。「外」に答えを求めるのはもうやめよう

 永遠に満たされることのない、「無いものねだり」という渇望の無間(むげん)地獄に引きずり込むシステムと決別しよう。

 そのためには、意識を自分の「内」に向け、一番大切な「すでにあるもの」に気付く必要がある。それは、あなたという原木の中に眠る完璧な彫刻作品のことだ。

「ぼくは答えを知らない。“答え”はあなたの中にある」

「その“唯一無二の彫刻作品”を削り出すお手伝いをするのが、ぼくの仕事です」

 これは、筆者がレコード会社でプロデューサーをやっていた頃、デビュー前のアーティストに伝えていた言葉だ。

 当時のように手取り足取りお手伝いできればいいが、今はニュージーランドの辺境の森に暮らすため、それが叶わない。

『超ミニマル・ライフ』と、前著『超ミニマル主義』は、あなたの「自分彫刻」を終わらせるために書き上げた。あなた自らが彫刻家となり、その彫刻作品をありのままの形で削り出すのだ。

 だが、全てが過剰な日本では、モノやコトを削ぎ落とすのも、自分らしく生きるのも非常に難しい。だから「ミニマル・ライフなんて不可能に近い」と言いたくなる気持ちはわかる。

 そのためのノウハウは広範囲にわたり、数も膨大となる。

 それゆえ、血の通った活字としてまとめるのに苦労を強いられ、2冊の本を完成させるのに計5年の歳月を費やした。

 書籍名に反し、かなりのボリュームとなっているが──複雑化しすぎて先行き不透明な──現代日本を軽やかに生き抜くため、システムに抵抗するための全技法を網羅できたと自負している。

「人生で一番大切にすべきことのために生きる」と決意する

なぜ日本人は「限りある時間」を無駄遣いしてしまうのか?【書籍オンライン編集部セレクション】著者はこの湖畔の森で10年以上「在宅×リモート」で働いている

 ここで念押ししておきたいことがある。

 北欧諸国や、筆者が住むニュージーランドなどの「日本より格段にモノが少なく不便な小国」で「身の丈」で暮らす人たち向けならば、この1/5もいらないということを。

 そして、現代の貧困国や紛争国、我々の祖父母が子ども時代の日本では、ミニマル化の技術なんてそもそも不要だということも忘れずにいてほしい。

 少なくとも今この段階では、「必要以上の何かを得るために、命の無駄遣いをやめる。人生で一番大切にすべきことのために生きる」と決意していただきたい。

(本記事は、『超ミニマル・ライフ』より、一部を抜粋・編集したものです)

【参考文献】
※1 WFP「あなたの街の暮らしは地球何個分?」(2019)、日本財団ジャーナル「日本人のプラごみ廃棄量は世界2位。国内外で加速する脱プラスチックの動き」(2022)
※2 Statista「Advertising spending in the world's largest ad markets in 2021」(2023)、電通報「過去最高を15年ぶりに更新する広告費7兆円超え。インターネット広告は3兆円を突破」(2023年2月24日)
※3 現代美術家であり社会活動家のヨーゼフ・ボイス(1921~1986)が唱えた「社会彫刻」から着想を得た概念。彼は、社会を構成するのが人である以上、人は誰もが社会を変えうる社会彫刻家であると主張し、後世の芸術家に大きな影響を与えた
※4 柳川範之、為末大『Unlearn(アンラーン)人生100年時代の新しい「学び」』日経BP(2022)